HOME > 法律コラム > 相続時精算課税の適用要件や期限内申告は税理士でも忘れがちなので要注意!
個人からの贈与に対して課税される贈与税は、計算方法が大きく2つあります。原則的な方法としては暦年課税という計算で、これは1年間に受けた贈与の総額から年110万円の基礎控除を差し引いて、累進課税で税額を計算するものです。
もう一つの方法は、相続時精算課税と言われるものです。これは、親や祖父母からの贈与に対し、20歳以上の受贈者が税務署に届出をすることで適用が認められる制度で、仮に要件を満たせば、親や祖父母などの贈与者ごとに贈与税額を計算します。なお、贈与者ごとに相続時精算課税を適用するか、選択することが可能です。
具体的な計算ですが、相続時精算課税の場合、贈与者ごとに2500万円までは特別控除として贈与税はかからず、それを超えれば20%の税率で一律贈与税が課税されます。一方で、「精算」という言葉が意味する通り、贈与者が死亡した場合の相続税の計算において、以下の取扱いがなされます。
1 贈与者から贈与を受けた財産は、相続により取得したものとみなされ、相続税の対象になる
2 相続税の対象になり課税されるが、上記で納めた贈与税は、相続税から控除できる
相続時精算課税は相続時にまで影響するものですので、一度選択すると撤回することはできません。このため、相続時精算課税を選択した贈与者からの贈与については、暦年課税のメリットである、年110万円の基礎控除が一生使えないことになるため、慎重な対応が必要です。
とは言え、贈与者ごとに2500万円まで贈与税が非課税というのは大きなメリットです。この制度を使って、両親から5000万円(2500万円×2人)の贈与をうけて資産運用した、といった話はよく耳にします。
この特別控除で注意したいのは、贈与税の期限内申告で、きちんと控除を受ける金額などの申告をしなければならないということです。この申告を失念する等すれば、この控除を受けることができませんので注意が必要です。
この点、税理士に贈与税の申告を依頼していれば問題ないとお考えになるかもしれませんが、税理士が申告を忘れて大変な事態になった、という事例があります。許されるべき話ではありませんが、相続時精算課税は撤回できず、かつ贈与税の申告は1年に1回ですので、税理士も失念したということでしょうか。
このようなことがないよう、相続時精算課税を選択した場合には、税理士の申告もチェックが必要と考えられます。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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