HOME > 法律コラム > 「新型コロナでイベント中止の入場料を払戻さず寄附で税優遇」は支援策として正しいのか
新型コロナウイルスの影響で、各種のイベントが中止になり、そのイベントの主催者が大きな損害を被っています。この主催者に対する救済措置として、イベントの入場料等を観客などが放棄した場合には、その放棄した金額について寄附金控除(所得控除か税額控除)の対象とするという措置が、財務省の緊急経済対策の一環で検討されているようです。
制度の全体像としては、こちら(PDF)の文化庁のパンフレットをご参照ください。
コロナウイルス対策として、緊急性が求められるにもかかわらず、その手続きはかなり大変です。
具体的には、まずイベントを中止とした主催者が、文化庁に中止したイベントについて、この制度の対象とするよう申請する必要があるとされています。この申請が承認されれば、文化庁から本制度の対象になる認定証明書などが主催者に交付されるとともに、文化庁のホームページでも、公開されるようです。
次に、認定を受けた主催者は、観客などが入場料などを放棄した場合、この制度の対象で寄附金控除などが受けられるよう、入場料を放棄したイベントが対象になるイベントであることを称する証明書と、放棄を受けたことを証明する書類を観客などに交付します。
最後に、上記証明書の交付を受けた観客などは、その証明書を確定申告書に添付するなどして、寄附金控除の適用を受けることになります。なお、電子申告で適用を受けることも可能ということです。
その他、以下の財務省の資料によると、対象になるイベントは、不特定かつ多数の者を対象とするイベントであって、令和2年2月1日から令和3年1月31日までに日本国内で開催予定だったものであり、かつ、現に中止されたものとなるようです。
不特定多数ですから、少人数のセミナーなどはこの対象にはならないでしょう。
加えて、この特例による寄附金控除の対象金額は、20万円が上限となるようです。
このような措置でイベント業者を救済しようとしていますが、実際問題として、手続きが面倒であること、そして放棄して寄附金控除を受けるよりも、返金を受けた方がメリットが大きいことから、この制度が主催者の支援につながるのか、疑問があります。
加えて、主催者としても、顧客に対する責任感から放棄を求めるより返金することが多いという印象もあり、このような形の支援が正しい在り方なのか、個人的に疑問です。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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