HOME > 法律コラム > 事業の成功に必要不可欠な欠損金の繰越控除の注意点を税理士が解説
法人税の節税で重要な取扱いの一つに、欠損金の繰越控除があります。これは、青色申告を提出している法人について認められるもので、過去10年の赤字(欠損金)を当期の黒字と相殺できる制度です。事業を始めた当初は赤字で、徐々に黒字化するのが通例ですから、この制度をうまく使って法人税を節税することは事業の成功に不可欠です。
この欠損金の繰越控除ですが、(1)欠損金が生じた年度で青色申告をしていること、(2)欠損金が生じた年度からそれを相殺する黒字の年度まで連続して確定申告書を提出すること、の二つの要件を満たす必要があります。(1)の青色申告とは、きちんと帳簿をつけて正確に取引を帳簿に記載することを条件に、税務署長の承認を得て認められる申告を言います。この注意点として、あくまでも赤字の年度で青色申告をしていれば適用できますから、その後青色申告でなくなったとしても、その赤字の年度の欠損金を使うことができます。
実務においては、上記(2)の要件が往々にして問題になります。連続してというのは、間をあけずに申告することを意味します。3月決算法人を前提に考えますが、2017年3月期は申告したものの、2018年3月期は申告をしないまま、2019年3月期の申告をしたとします。この場合には、本来申告しなければならない2018年3月期の申告をしていませんので、連続提出したことになりません。あくまでも、申告するべき期間ごとに、連続して出す必要があるのです。
過去数年間申告していないような場合にこの要件が問題になるのですが、仮に申告がない年度がある場合には、数年分まとめて申告しなければ、この要件を満たさないことになります。
ところで、この連続提出の考え方は、個人の株の譲渡所得などとも同様です。
個人が上場株式の取引を行っている場合、株取引で発生した損失は、3年間繰り越すことが出来ます。この繰越の要件も、連続提出ですので、損が発生した年度の申告はあるものの、その後申告せず、譲渡益が生じた3年後に申告をしても相殺は認められません。このため、いったん譲渡損を申告すれば、毎年申告しないと不利になります。
法人とは異なり、個人は税額が生じない場合には申告する必要がないこともあって、この要件を失念しがちなので注意してください。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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