HOME > 法律コラム > 無申告に対して重加算税や刑罰がかかるかどうかの判断とは
大きなニュースとなった、チュートリアルの徳井さんの無申告ですが、申告していない金額が大きいこともあって、なぜ刑罰がかからないのか、疑問に思う方もいるようです。刑罰の対象になるかどうかは、反省の度合いや申告しなかった意図などにもよりますので一概には言えませんが、無申告であることがその判断に影響を与えていることは残念ながら事実です。
というのも、無申告というのは悪意を立証しがたいからです。
売上を申告せずにプールして税額をごまかすなど、脱税で刑罰を付すためには犯意を立証しなければなりません。金額をごまかしたにしても申告をしていれば、××円の売上を申告していない、という証拠になりますので、脱税の意図を立証しやすいです。一方で、無申告とは全く申告をしないことですので、単に申告を忘れたのか、それとも意図的に申告をしなかったのか、その意図を判断することは難しいです。
このような事情がありますので、無申告に対して厳罰をかけるのは非常に難しいと言われています。典型例は、不正申告に対するペナルティーである重加算税です。数年前、とある著名な学者が数年間に渡り申告をせずに当時問題になりましたが、この場合にも重加算税は課税されていません。やはり不正と断ずるのが難しかった、ということなのでしょう。
徳井さんの場合、申告していないことを数年前に指摘され、それからすぐに申告した年分については重加算税がかかり、その後申告していない年分については重加算税がかかっていません。申告していないことが、重加算税の証拠として不十分、という逆説的な結論になっているのです。
このような実務の限界があるため、申告しない方が得をする、申告をして不正が見つかった場合と比較して不平等、といった批判的な声が聞かれます。心情的には理解できない訳ではありませんが、当然のことながらこのような批判は正しくありません。
無申告もそうですが、不正な申告をすることで社会的な制裁は非常に大きいです。徳井さんの事例についても、社会的なダメージは相当大きいものですので、結局は大きなダメージを受けていますので、再度適正申告に心がける必要があると言えます。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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