HOME > 法律コラム > 国税が厳しく対応している海外渡航費の経費性について元国税が解説
海外視察に要した費用など、いわゆる海外渡航費に対しては、国税は非常に厳しい対応をしています。この理由は、海外渡航費には業務に関係ないものが往々にして含まれているからです。典型例は、海外視察に伴って観光をするということです。
このため、法人税の原則的な取扱いとしては、(1)海外渡航が法人の業務の遂行上必要なもので、かつ、(2)その海外渡航のため通常必要と認められる部分の金額に限って、費用とすることが出来るとしています。
第一に、業務の遂行上必要であるかが問題になる訳ですが、この判断は旅行の目的、旅行先、旅行経路、旅行期間などを総合的に見た上で、実質判定することとされています。このため、確実な決め手はありませんが、旅行の日程表や業務に必要であることを裏付ける資料を保存して、国税と交渉するということになります。
なお、以下のような海外渡航は業務に直接必要であることを疎明できない限り、原則として経費にならないとされていますので注意してください。
1 観光渡航の許可を得て行う海外渡航
2 旅行あっせんを行う者等が行う団体旅行に応募してする海外渡航
3 同業者団体その他これに準ずる団体が主催して行う団体旅行で主として観光目的と認められる海外渡航
冒頭申し上げた通り、海外渡航については業務に関係ない部分もその行程に含まれることが問題になります。このため、観光なども一緒に行う海外渡航については、海外渡航に関して発生する旅費を、法人の業務の遂行上必要と認められる旅行の期間と、認められない旅行の期間との比等により按分し、前者については旅費として経費になります。
一方で、後者については、私的なものに該当するとして、その観光などを行った役員又は使用人に対する給与になるとされます。使用人給与は別にして、この場合の役員給与は法人の経費にそもそも該当しませんので、法人税が追徴されるとともに、給与として所得税もとられることになります。
海外渡航費の税務調査の相談も多く受けていますが、その相談を通じて受ける印象として、海外渡航費に関する資料の保存が不足していることが多いと思われます。経営者の皆様の印象としては、視察なので当然経費と思われると思いますが、上記の通り厳しい取扱いがありますので、海外渡航費に関しては資料の保存にいつも以上に注意してください。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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