HOME > 法律コラム > 「職場・学校で風邪をうつされた!絶対にあの人のせいだ!」さて治療費請求は可能?不可能?
10月中旬からインフルエンザの予防接種が受けられるようになります。
この時期は季節の変わり目ですので体調管理が難しい時期でもあります。
ご老人や妊婦、小さなお子さんは特に気をつけなければいけませんが、さて「風邪をうつされた!」と感染元が明らかである場合、相手方に治療費を請求できるのでしょうか?
清水陽平弁護士に話を聞いてみました。
風邪やインフルエンザをうつされた際に、感染元の相手が明確なのであれば、治療費等を請求できる可能性があります。
そのためには、請求相手に「故意過失」があったこと、本件でいえば、請求相手があなたを感染させ治療費等の損害を生じさせることについて認識していた又は認識しえたことを立証する必要があります。
これには、本人が自身の感染について認識していたことが前提となるので、例えば風邪やインフルエンザの症状が強く出ていたとか、病院に行っていたなどの事情が必要になります。そのうえで、密室で長時間面会したなどの事情があれば、立証が可能です。このような場合には、感染元の相手に治療費等を請求することができるでしょう。
もっとも、「疲労によるただの体調不良であり風邪だとは思わなかった」とか、「マスクをしていたしまさかうつるとは思わなかった」などと言われてしまえば、故意過失の立証は困難になってきます。
さらに、本件では「感染元の相手が明確な場合」を前提に解説をしていますが、実務上は、この部分の立証も非常に困難です。すなわち、治療費を請求する場合には、感染行為を不法行為と捉え、これにより生じた損害(治療費)の賠償を請求していくことになるため、「因果関係」が存在しなくてはなりません。
本件で因果関係を立証するためには、請求相手が感染元であることを立証する必要があります。そして、インフルエンザや風邪などは飛沫感染するものであり、例えば電車や職場など人が集まるところであれば、どこでも感染する可能性があります。したがって因果関係の立証のためには、「風邪をひいている人に会ったら自分も風邪を引いた」というだけではなく、請求相手以外の感染経路が考えられないこと、例えば、他の人と一切接触していないことまでを、立証しなくてはならないのです。そのため、質問にある「感染元の相手が明確な場合」というのが、「インフルエンザになったが、最近周りでインフルエンザにかかっている人は1人だから、絶対あの人が感染元だ!」という理由で「明確」と言っているのであれば、それだけでは因果関係の立証ができたとは言えません。
このように、因果関係の立証はとても困難で、実務上は請求は難しいと思います。