HOME > 法律コラム > 民法改正で形式上の貸倒れに影響があるのかどうかを税理士が解説
実務上、債権の回収ができない場合、その債権について貸倒損失として経費計上するかどうかの検討が必要になります。税務上、貸倒損失の計上は非常に厳しく、3つの場合しか計上が認められません。詳細は、国税庁ホームページをご参照ください。
このうち、よく使われるものが形式上の貸倒れといわれるものです。これは継続的な取引がある売上先の売掛債権などについて認められるもので、最後の取引があってから1年以上経過したものなどについて、回収ができないとして、貸倒損失の計上を認めるものです。
形式上の貸倒れは1年以上という要件がありますが、この1年の趣旨は、民法の時効から来ていると言われます。民法上、一定の債権は短期消滅時効の対象になります。このうち、飲み屋のツケ代などは、1年の消滅時効に当たります。消滅時効が成立すると、債権がなくなりますから、一番短い1年の短期消滅時効を踏まえて、このような取扱いとなっているのです。
なお、形式上の貸倒れは貸付金などについては認められませんが、貸付金は短期消滅時効の対象にならないことを踏まえてのものと言われます。
ところで、この時効について、先の民法改正で大きく改正されることになりました。具体的には、短期消滅時効などの特例的な時効をなくし、原則として消滅時効を5年に統一するという改正です。このため、飲み屋のツケ代なども今後は5年が消滅時効となります。
この改正ですが、去る2020年4月1日から改正民法が施行されており、2020年4月1日より前に生じた債権については改正前の消滅時効で、それ以降に生じた債権については原則として5年の消滅時効になるとされています。
消滅時効が改正されるとなると、民法改正前の短期消滅時効を前提にした形式上の貸倒れについても影響があるのではないか、といった疑義があります。具体的には、時効が5年で統一されるため、形式上の貸倒れの要件も、1年から5年に延長されるのではないか、といった噂がありました。
この点、とある税務雑誌によると、民法改正に関係なく形式上の貸倒れの年数は、従来通り1年のままと報道されています。このため、今後も1年で見れば足りると考えられます。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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