HOME > 法律コラム > 株式譲渡で取得費が不明だった場合の譲渡所得の計算方法とは
個人で株を譲渡した場合、譲渡所得の課税が生じますが、その譲渡所得の計算は、譲渡による収入金額から譲渡した株式の取得費などを控除して計算します。取得費とは文字通り株を取得した金額を言いますが、例えば同じ銘柄の株式を二回に分けて取得するような場合、別途計算が必要になります。
具体的に申しますと、1回目は1株100円で10,000株、2回目は1株120円で10,000株取得し、そのうち11,000株を売却したとします。この場合、売却した株式の取得費は、原則として以下の総平均法で計算することになります。
(1)株の単価
(100円×10,000株+120円×10,000株)/(10,000株+10,000株)=110円
(2)譲渡した株の取得費
110円×11,000株=1,210,000円
実務上、問題になるのは上記の計算方法ではなく、取得した金額が不明の場合です。相続で取得した場合など、実際にいくらで購入したかわからない場合が多々あります。この場合、原則としては概算取得費という方法で計算します。概算取得費とは、収入金額の5%を取得費とする計算方法を言います。結果として、概算取得費を使えば、収入金額の95%が譲渡所得の課税対象になりますので、譲渡所得の課税対象が大きくなります。
このような事情がありますので、出来る限り概算取得費は使いたくない訳です。このため、複数回にわたって株式を取得する場合、例えば1回目は実際の取得価額が分かるものの、2回目は分からないといったケースについて、その不明な1回分のみ概算取得費を使うことはできないか、といった質問を受けることがあります。この点、国税の内規を見ますと、概算取得費を使う場合にはそのすべてについて概算取得費を使う必要があり、一部についてのみ概算取得費を使うことはできないとされていますので注意してください。
このため、取得費についてはきちんと記録するなどしておくべきですが、上場株式についてですが、取引報告書を紛失した場合の取得費の計算として、以下の方法も認められるとされています。直接使うことは難しいかも知れませんが、検討してください。
1 証券会社で購入したものについて、証券会社に確認する方法
2 上記で不明なものについては、日記や預金通帳などの本人の手控えにより取得価額を算定する方法
3 上記2でも不明なものについては、上場株式の名義書換時期の相場により取得費を算定する方法
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在の専門は元国税調査官の税理士として税務調査のピンチヒッターと税務訴訟の補佐。税法に関する著書、講演、取材実績多数。税務調査対策術を無料で公開中。
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