HOME > 法律コラム > 貸付事業用宅地等に係る小規模宅地の特例の適用で注意すべき混同とその対策
相続税の特例として、被相続人が事業や居住のためなどに使っていた宅地を、一定の要件を満たす相続人が相続した場合、一定の面積まで宅地の評価を下げられる小規模宅地の特例が設けられています。この特例の対象になる宅地の一つに、貸付事業用宅地等があります。
この宅地は、原則として、被相続人がマンションや駐車場の貸付など、不動産賃貸に使っていた宅地が該当します。このような宅地について、その被相続人の不倒産賃貸事業を引き継ぐ相続人が相続し、相続税の申告期限まで保有するなど一定の要件を満たす場合には、200㎡まで、50%の評価減の適用を受けることが出来ます。
ところで、貸付事業用宅地等に係る小規模宅地の特例の適用上、注意したいことの一つに混同が挙げられます。混同とは民法の用語で、債務者と債権者が同一になることを言います。不動産賃貸でいえば、大家=店子という状態になることを意味します。
貸付事業用宅地等で混同が問題になるのは、被相続人である親が、その賃貸事業に使っている宅地を、その宅地を相続する相続人に、生前賃料を取って貸していることもあるからです。
例えば、相続人である子が被相続人である親の所有している宅地と建物を借りて、個人で事業をしているといったケースが考えられます。この場合、通常は賃料を取らない使用貸借ですが、自分の事業の節税と、生計別の親への生活費の支援や所得分散などの意味から、親に賃料を支払っていることもあります。
この場合、被相続人としてはその宅地を不動産賃貸業に使っていることは間違いありませんが、その相続人がその宅地を相続すると、借主と貸主がその相続人で一致するため、混同により賃貸借契約が継続しないことになります。賃貸借契約が継続しないとなると、被相続人の不動産賃貸事業を引き継がないことになるため、貸付事業用宅地等に係る小規模宅地の特例の対象にはならないとされます。
このような事態を避けるためには、混同にならないよう他の相続人がその宅地を相続することです。貸付事業用宅地等に限った話ではありませんが、小規模宅地の特例の適用上、遺産分割の方法により特例が使えたり使えなかったりしますので、注意が必要です。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在の専門は元国税調査官の税理士として税務調査のピンチヒッターと税務訴訟の補佐。税法に関する著書、講演、取材実績多数。税務調査対策術を無料で公開中。
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