HOME > 法律コラム > 時効取得した土地の所得区分と取得費を元国税の税理士が解説
民法上、取得時効という制度があります。時効とは、ごく簡単に言えば真実より時間の経過を優先させる制度です。この考え方から、一定の場合、真実は所有者ではなくとも、長年にわたりその財産を占有(所有者のように公然と支配している状態を言います)していれば、その時間の経過を優先させ、原則としてその一定の期間を経過したタイミングで、その占有している者を真実の所有者として取り扱うこととされています。
時効は、真実の所有者であれば自分に所有権があることを当然に主張するべきであり、権利があることを放置してそれを守る努力をしない者は救わない、といった考えをベースとしています。物の占有を長年にわたり許している、ということは自分の所有権を放棄していることと大きく変わりません。
なお、取得時効について、最も問題になる財産は土地です。
土地を前提に解説しますが、時効で取得するということは、土地の代金を支払わず半ば無償で財産を取得した、ということになります。このような無償取得については、自分の財産が増えたことと一緒ですから、個人の場合所得税の課税対象になります。
この場合の所得税ですが、一時所得という所得で課税されます。一時所得とは、継続的なビジネスなどではない、まさにたままた発生したような所得を言います。典型例は競馬の馬券で、競馬はほとんどの場合趣味で行うもので、もうかるにしてもたまたまですから、このような儲けについては一時所得になります。
一時所得はたまたま貰える所得ですので、所得税が大きく優遇されます。所得が50万円いかなければそもそも課税されませんし、課税されるにしても、その50万円を控除した残額の1/2だけ課税されます。
一方で、実務上問題になるのはその時効取得した土地を売却した場合の取扱いです。資産を売却すると、原則として譲渡所得税が課税されますが、譲渡所得は収入金額から取得費(資産の取得に要した金額)などを差し引いて計算されます。時効取得の場合、この取得費がいくらか問題になるのです。
これについては、先の一時所得の収入金額、すなわち時効で取得した土地の時価になるという判例があります。このため、取得時の時価を把握する必要があります。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在の専門は元国税調査官の税理士として税務調査のピンチヒッターと税務訴訟の補佐。税法に関する著書、講演、取材実績多数。税務調査対策術を無料で公開中。
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