HOME > 法律コラム > 【税務調査】国税調査官にはどこまで裁量が与えられているか元国税が解説
税務調査に関してよく質問を受けることの一つに、税務調査を実施する国税調査官にどこまで裁量が認められるか、ということが挙げられます。税務調査の実務においては、国税調査官の裁量で課税もれがお咎めなしになることもありますのでこのような疑問が生じる訳ですが、結論から申し上げますと、国税調査官に裁量はありません。
税務調査を行って会社をいじめる国税調査官も基を遡れば公務員です。公務員は上司の指示に従う義務がありますので、独断で税務調査を進めたり、課税の有無を決めたりすることはできません。このため。税務調査の結果については、統括官などの上司の決裁を受けることがすべからく必要になります。
このような建前があるものの、実際の税務調査では国税調査官の裁量がかなり幅を利かせます。この理由は、隠ぺいと忖度にあります。
税務調査をすると、会社によってはいろいろと間違いがある訳ですが、すべての間違いを納税者に是正させるとなると、調査結果の報告書である決議書の作成が面倒くさいことになります。金額が大きい場合は別にして、仕事が嫌いな国税調査官は、できるだけ決議書の作成の手間を削減するために、間違いを見なかったことにする、という対応を取ります。実際に間違いを発見したのであれば、上司への報告義務がありますが、上司に報告するとその間違いは是正しなければならず面倒くさいので、敢えて見なかったことにして上司への報告もしないのです。
簡単に言えば、事実関係を上司に隠ぺいすることで自分の仕事量を削減しているのです。
それに止まらず、国税の統括官は、職員に対して忖度して、彼らの裁量を黙認する場合もあります。例えば、統括官と同年代の部下職員がいれば、このような部下職員に指導すると軋轢が生じるので、彼らの判断を「信頼」するという形で特に報告も求めない、という投げやりな対応をすることも多々あります。
結果として、本来課税すべき間違いが、仕事をしたくない部下職員の意向で見過ごされてしまうことがあるのです。
こういう訳で、裁量はないものの結果として国税調査官のさじ加減で課税が見過ごされてしまう場合が多々ある訳ですが、後日このさじ加減について問題になることがありますので、安易に国税調査官を信頼せず、逐一彼らの発言を録音するべきと考えられます。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在の専門は元国税調査官の税理士として税務調査のピンチヒッターと税務訴訟の補佐。税法に関する著書、講演、取材実績多数。税務調査対策術を無料で公開中。
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