HOME > 法律コラム > 短期前払費用と重要性の原則について元国税の税理士が解説
有用な節税手法として挙げられる項目の一つに、短期前払費用の特例が挙げられます。これは、保険や家賃、リース料など、毎月概ね同額のサービスを受ける費用について、毎期継続して前払いで支払った場合、それが決算日から1年以内の費用であれば、その支払ったタイミングで費用とすることが出来るという制度です。通常、これらの費用は毎月発生する費用ですから、その月ごとに費用とすべきですが、短期前払費用の特例の適用を受けるのであれば、このような月ごとの按分が不要になり、費用を前倒しできるので節税になるのです。
このような取扱いが認められるのは、企業会計における重要性の原則を踏まえたものだからと言われます。重要性の原則とは、会計上重要性の乏しい費用については、経理のコストを踏まえて簡便な処理ができるとする原則を言います。ここでいう重要性は、大きく金額面の重要性(金額の大きさ)と、科目の重要性(財務判断に影響を及ぼす科目か否か)といったところから判断されます。
法人税法は企業会計の影響を受けますので、この企業会計の考え方を取り入れて短期前払費用という特例を認めているのです。
このため、注意したいこととしては、重要性のある項目について、短期前払費用の特例は使えない、ということです。例えば、売上が2億円の会社が、1.5億円の家賃を支払っていた、という場合、この1.5億円の家賃については金額が大きく重要性があるため、短期前払費用の適用は認められない、といった指導が国税からなされる可能性が大きいと考えられます。
同様に、同じ家賃でも工場の家賃のように、いわゆる原価項目の家賃については、重要性のある科目として、短期前払費用の特例が認められない可能性が大きいです。実際のところ、原価項目の費用について、短期前払費用の特例が否認された裁判例もあります。
金額が大きいと言えるか、重要性のある科目と言えるか、それは企業の実態に応じて判断されますので一概には言えませんが、重要性があると判断されれば否認されることになりますので、この点税理士などの専門家と相談しながら慎重に対応する必要があります。
その他、例えば3年分前払いして、そのうち決算日から1年分だけを短期前払費用として当期の費用とする、といった処理も認められません。短期前払費用は支払金額の全額を一度に落とす、という簡便的な処理を認めているのに、3年分のうち1年分を計算する、という処理は簡便とは言えないからです。重要性の原則は簡便な処理を認める、という仕組みですから、この考えと矛盾するためこのような処理は認められないのです。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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