HOME > 法律コラム > アーンアウトの課税関係について個人的見解と近年の傾向を元国税が解説
株の譲渡によるM&A取引を行う際、アーンアウト条項が設けられることがあります。これは、M&A取引を実行した後、買収事業が所定の目標を達成した段階で追加でお金を払う、といった条項を意味します。M&Aは、買収事業の事業価値に着目してお金を払うものですが、実際に見込みのように利益を上げられるかは不透明です。このため、買収後の一定期間の利益状況などを基に、買収金額を増減させることとし、買手のリスクをヘッジする目的で行われます。
同様に、売手としても、実際の実績を売却金額に反映できるため、安く買いたたかれることを防止することができるというメリットもあります。
このアーンアウトについて、税務上その取扱いが不透明であるため問題になっています。個人的な見解を申しますと、将来の事象に応じて譲渡金額が変わると言っても、譲渡代金には変わりませんので、株の譲渡代金に係るものとして、譲渡所得と考えていました。
この考えの問題点としては、譲渡所得は原則として株の引渡しのタイミングで認識することです。すなわち、引渡し年度で譲渡所得をいったん申告するものの、アーンアウト条項の条件が成就したタイミングで修正申告等が必要になるという結論になる訳で、結果として処理が煩雑になるという問題が発生します。
ところで、このアーンアウトについて、国税の内規において、譲渡所得ではなく雑所得になるという見解が掲載されていることが分かりました。すなわち、アーンアウトの条項が成就したタイミングで、別途雑所得として申告しなければならないということになります。
雑所得となると、株の譲渡所得よりもはるかに税率が大きくなる可能性がありますので、非常に酷な取扱いになります。困ったことに、権威ある税務雑誌においても原則として雑所得であると、国税の内規と同じ見解が掲載されており、今後の取扱いとしては、アーンアウトによって増加する収入金額は、譲渡所得ではなく雑所得として申告しないとリスクが大きいと言えます。
最後に、雑所得になる理由ですが、国税の内規によると、アーンアウト条項により増加する金額は、条件が成就したタイミングで確定するため、譲渡時においては権利確定していないから、と解説されています。所得税の収入は権利確定のタイミングで計上しますので、譲渡時に権利確定していないものは譲渡所得にならないという理屈なのです。
ただし、残念ながら譲渡所得については権利確定ではなく、引渡しのタイミングで収入計上する取扱いになっていますので、国税の理屈は多少無理があると個人的には考えます。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
※注意事項:記載については、著者の個人的見解であり正確性を保証するものではありません。本コラムのご利用によって生じたいかなる損害に対しても、著者は賠償責任を負いません。加えて、今後の税制改正等により、内容の全部または一部の見直しがありうる点にご注意ください。