HOME > 法律コラム > 「居眠りしているお客さんを追い出す」→「金払ってるんだから何をしてもいいだろ!」訴えたらどっちが勝つ?
実際にあったお話です。
立川談志さんの落語会の席上で居眠りをしたお客さんがいました。
立川談志さんはしばらくしてから、それが理由で落語を中断しました。
主催者がそのお客さんを退出させ、落語は再開されました。
その後お客さんが名誉を傷つけられたなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求をしました。
これに対して主催者は強引に退出させた事実はないと主張しました。
結論としてはお客さんの主張は否定され、落語会・主催者の勝訴となりました。
この問題について蓮見和章弁護士にお話を聞いてみました。
確かに、お客さんとしてお金を払って観客として来ている以上、うるさくしていなければ何をやってもいいではないかという考えもあるかと思います。現にクラシックコンサートでは心地よい音楽を目をつむりながら聞いている人は結構多いと思います。
しかし、今回は落語会という場です。話し手である立川談志さんが、考え抜いた話を観客に披露し、観客も生の談志さんを見て、生の話を聞くために金を払っています。時には談志さんの話に対するお客さんの反応が、談志さんを力づけさらに面白い話になっていき会場が盛り上がるという相乗効果もあります。
裁判ではこの落語会の性質が重要視され、お客さんの居眠りによって談志さんの意思がそがれると、演目続行の重大な障害になることもありえるし、その場合は他の観客にも大きな損害を与えるおそれが十分にありえたとして、演目の円滑な実施及び他の観客の利益保護の観点からお客さんを退去させることに正当性があると判断したのです。つまり一人のお客さんの居眠りが会場の空気を乱したと判断されたのです。
表現者と観客が一体となって会場の雰囲気が醸成されるような会の場合は、今回と同様にお客さんを退去させることが認められることがあるかもしれません。判決でも、講演会や演奏会、演芸会を例示しており、今回の落語会と同じような性質があると考えているようです。
しかし、この判決は居眠りしているからといって即退去を命じてもよいと言っているわけではありません。退去を命じられる客の不利益も考慮し、(1)退去を命じなければ当該演目の続行ないし再開が困難であり、かつ(2)退去を求めた際の主催者側の一連の言動が、具体的状況下で社会的に相当と認められる場合に限り退去させることが正当化されると判断しています。
そして、このケースでは、居眠りをきっかけに一旦落語会が中断したことや主催者側が当該お客さんに対して丁寧に退去を懇願していることに加え、お客さんが居眠りによって他の観客に迷惑をかけたことに関して反省の態度を示さなかったことを考慮して正当性を認めています。
こうしてみると、今回の判決のケースはやや特殊なものといえるかもしれませんね