HOME > 法律コラム > 老々介護による認知症患者の事故。出歩かせないことが最善の方法だなんておかしい?!公的支援は?
2007年12月、徘徊症状がある認知症の男性(当時91)がJR東海の運航する電車にはねられ死亡した事故について、名古屋高裁は2014年4月、妻(91歳)のみに約360万円の賠償を命じました。判決では、妻の夫の徘徊を防ぐべき監督義務が認められたのですが、妻自身も要介護1の認定を受けており、「老老介護」の現状が浮き彫りにされた形となりました。
「老老介護」を巡る問題はもはや介護問題の中心になっています。厚生労働省の2013年生活基礎調査によると、
65歳以上の介護を必要とする高齢者がいる世帯のうち、介護する人も65歳以上である「老老介護」の世帯は5割を超えています。
現在、団塊の世代の約半数が65歳以上になっていることから、今後も「老老介護」の問題は増加するものと思われます。「老老介護」から生じる問題の中で特に社会問題化しているのは行方不明の高齢者の事故のリスクです。NHKニュースによると、認知症やその疑いがあって行方不明になる高齢者は年間1万人近くに上っているのが現状で、うち約 350人の死亡が確認されています。さらに、 8年ほどの間に少なくとも64人の認知症患者が鉄道事故で死亡しているとされています。
今回は老々介護による公的な支援があるかどうか荻原邦夫弁護士に聞いてみました。
今後、高齢化が進み、老老介護の問題は、より多く、より深くなっていくでしょう。そのときに、家族による監督に頼り切るのは、どこかで限界が生じることは目に見えています。
老老介護への公的な支援として、家族介護慰労金の支給等がありますが、本件のような責任能力のない者に対する全日的な監督を念頭に置いたとき、とうていそれに見合い、賄えるものではありません。
本件のように裁判になれば、家族の不法行為責任が問題にされてしまうことはやむを得ませんが、これは家族内の問題というよりは、国の将来像の問題です。国として具体的な制度を作り、関係者が負担すべき義務について具体的な基準を示して行かなければならないでしょう。
本件のような、重い認知症の家族を持った者に厳しく、監督義務の限界が見えづらい判決が続くようなことがあれば、出歩かせないようにすることが最も安全であるなどと考え実行する家庭が出てきてもおかしくありません。この判決は、ある者は外出する自由を奪われ、ある者は家族を縛らなければならないという社会を作るインセンティブに成りかねず、老老介護の問題点を改めて知らしめたと言えると思います。