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自転車やバイクが車を避けようとして転倒による負傷を負った場合、泣き寝入りしかないの?!

直接の衝突や接触はなくとも、当事者のどちらか、あるいは双方に損害が発生する交通事故があります。これを非接触事故や誘引事故といいます。例えばバイクを運転中に、隣の車線を走る車が急な進路変更をし、それを避けようとするため急ブレーキをかけ、それが原因でバランスを崩し転倒するというのが良くあるケースです。
こういった乗用車との接触がない交通事故において、争点となるのは「相手の行為と被害者の損害との間に相当因果関係があるのかどうか」です。今回は、そもそも誘引事故と認められるかどうかの要件や、万が一誘引をしてしまった場合の保障について山崎佳寿幸弁護士に話を聞いてみました。

誘引事故となるためには何か要件があるのでしょうか?

誘引事故とは,非接触事故とも呼ばれ,加害車両との接触がないにもかかわらず,被害者が転倒するなどして負傷したりする事故をいいます。加害者から見ると,被害者が勝手に転倒したと言えそうです。
このような場合,どのような要件があれば,被害者が加害者に対して,損害賠償請求ができるでしょうか。
この問題について,参考になる最高裁判例があります。
これは,加害車両の運行が被害者たる歩行者の予測を裏切るような常軌を逸したものであって,歩行者が,これによって危難を避けるべき方法を見失い転倒して受傷するなど,衝突にも比すべき事態によって傷害を受けたという事案に対して,最高裁は,「 不法行為において,車両の運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係があるとされる場合は,車両が被害者に直接接触したり,または車両が衝突した物体等がさらに被害者に接触したりするときが普通であるが,これに限られるものではなく,このような接触がないときであつても,車両の運行が被害者の予測を裏切るような常軌を逸したものであつて,歩行者がこれによつて危難を避けるべき方法を見失い転倒して受傷するなど,衝突にも比すべき事態によつて傷害が生じた場合には,その運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係を認めるのが相当である。」との判決を下しました(最高裁第3小法廷昭和47年5月30日判決民集26巻4号939頁)。

この判決は,すなわち,加害車両の運転が被害者の予測を裏切るような常軌を逸するものであるとき(車両の運行状態が違法であること),歩行者がこれによって危難を避けるべき方法を見失い転倒して受傷する(因果関係の存在)があれば,加害車両が接触していなくても,加害者が損害賠償義務を負うことを示しています。

従って,誘引事故と言えるためには,単に被害者が加害車両の運行に驚いて転倒するなどして負傷したというだけでは足りず,加害車両の運行が違法であることも必要になります。
これについては,自動車が自転車を追い越すについて,自転車との間に1mの間隔を取り,減速して進行したにもかかわらず,自転車が転倒したという事案において,自動車側の責任を否定した裁判例もあります。
これは,自動車の運行状態を違法とまで評価することができなかったためと考えられます。

従って,誘引事故と言えるためには,加害車両の運行状態が違法であること,その違法な運行と負傷との間に因果関係があることを要件とすると考えます。

歩行者や自転車が事故を誘引した場合,保険未加入である場合が高いと思いますが,そういった方達に何か保障があるのでしょうか。

通勤途中であれば,労災による補償がなされる余地があると思います。
他方で,被害者は,加害者に対して,損害賠償請求をすることになります。
ただ,通勤途中でなければ,被害者が,加害者から全額の賠償を現実に受けることは難しいと思われます。
他方で,加害者にとっても,財産に対する強制執行を受けることになりかねません。
そして,この種の事故は,誰でもが加害者なり得るものです。
そこで,個人賠償責任保険に加入されることをお勧めします。

取材協力弁護士  山崎佳寿幸 山崎法律事務所代表 Twitter
熊本県弁護士会所属。平成24年度 熊本県弁護士会副会長。RKKラジオ 毎週日曜日午後4時50分からの「お尋ねください!山崎です!」に出演中。町医者のような法律事務所を目指して運営中。力強い法的パートナーとして、依頼者の権利・利益を守ります。

ライター 大田タケル Twitter Blog