HOME > 法律コラム > W杯で噛みついたウルグアイ代表のスアレス選手、これって傷害罪?
現在開催中のサッカーW杯ブラジル大会。
サッカーウルグアイ代表のルイス・スアレス選手が試合中にイタリア代表のキエッリーニ選手の肩を噛み付きました。今回で3回目になるので、またか!と思った方もいるでしょう。
国際サッカー連盟(FIFA)はルイス・スアレス選手に「代表戦9試合の出場停止と、罰金、サッカーに関連するあらゆる活動を4カ月間禁止する」と処分を発表しています。
ですが、スポーツの試合とはいえ、故意の暴力は犯罪ではないのでしょうか?
通常は傷害罪や暴行罪になるとおもいます。しかし、刑法第35条に「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」とありますので、スポーツの性質上起こりうる行為は違法とならないとされています。
スポーツの試合中、常識の範囲外の故意に噛み付いた場合は正当な理由で噛み付いたと言えるのでしょうか?
サッカーに限らず、スポーツをしている人にとっては、この刑法35条はどのように関わってくるのか気になるところでもあります。
そこで加塚裕師 弁護士にお話を聞いてみました。
今回の噛み付き事件ですが、明らかに故意であると判断され、また相手方が実際に負傷しているのであれば傷害罪の構成要件に該当します。
そして特に違法性や責任を阻却する事由も見当たりませんので、日本の刑法に照らせば傷害罪が成立するものと思われます。
スポーツの試合中ではありませんが、格闘技の練習中の行為が罪に問われた事例として以下のものがあります。
・空手の練習中に相手を死亡させた事案につき、傷害致死罪の成立を認めた事例(大阪地方裁判所昭和62年4月21日判決)
・日本拳法の練習中に相手を死亡させた事案につき、傷害致死罪の成立を認めた事例(大阪地方裁判所平成4年7月20日判決)
格闘技その他スポーツの試合や練習における行為が正当業務行為として違法性を阻却されるためには以下の条件が必要であるとされています。
(1)スポーツを行う目的
(2)ルールを守って行われる
(3)相手の同意の範囲内で行われること
そして、ボクシングのような格闘技において、競技者は死の危険の発生も含めて同意をしていると考えられています。
したがって、スポーツを行う目的で、ルールを遵守して格闘技を行う限りは、結果的に相手が死傷したとしても、罪に問われることはありませんが、逆に言えば前記(1)、(2)の要件を満たさない場合には、正当業務行為として認められず、業務上過失致死罪、傷害致死罪等の成立が認められると思われます。
なお、格闘技の試合において相手を死亡させることに故意がある場合には、前記①の「スポーツを行う目的」を満たさず正当業務行為としては認められないと考えます。
スポーツの競技中や練習中に相手に怪我をさせ、それが行き過ぎた行為であった場合に関しては、そのスポーツにおける競技のルール、標準的な練習方法等に照らして、そこから逸脱した行為については、前記(2)の要件を欠き、正当業務行為該当性が否定されることになると思われます。
・平成4年 愛知県立刈谷高等学校卒業
・平成8年 中央大学法学部卒業
・平成11年 弁護士登録(愛知県弁護士会)
・平成18年 加塚法律事務所開設
・事務所名 加塚法律事務所