HOME > 法律コラム > 退職後にセクハラ・パワハラで訴える場合、絶対に抑えておくべきポイントを弁護士が解説!
在職中にセクハラやパワハラで訴訟を起こす場合、本来であれば法的に当然の主張をしているので、何の問題も無いはずです。
しかし現実問題として、いざ当事者となって考えてみると、在職中の訴訟提起は抵抗があるでしょう。
勿論、出世や会社との関係悪化を心配し、正当な権利を行使する機会を失うのは本末転倒では有りますが、そこにはやはり慎重な対応が迫られます。
そこでよくあるのが退職後の訴訟です。
在職中よりも、まだ幾分気が楽だと考えがちではないでしょうか。
今回は、退職後にセクハラやパワハラで訴える場合の注意事項を尾﨑英司弁護士に聞いてみました。
まずはセクハラという行為が、そもそもどんな罪になるのでしょうか。
『すべてのセクハラ・パワハラ行為が、罪となり刑罰が科されるわけではありません』(尾﨑英司弁護士)
『セクハラ行為の中でも悪質な行為が行われた場合には、刑法上の犯罪となります。具体的には、暴行・脅迫された上でわいせつな行為や姦淫行為をされた場合には強制わいせつ罪や強姦罪、泥酔・睡眠状態等抵抗困難な状態の時にわいせつな行為をされた場合には準強制わいせつ罪が成立します。また、そこまで至らずとも、つきまとい行為や交際の強要、連続的な無言電話・メール等の送信は、ストーカー規制法や軽犯罪法上の犯罪が成立します』(尾﨑英司弁護士)
次にパワハラという行為はどうでしょうか。
『パワハラ行為については、上司から暴行・脅迫を受ければ暴行罪・脅迫罪、暴行されて怪我をすれば傷害罪、他の社員の目の前で侮辱的な発言や人格を非難する発言をされた場合には侮辱罪・名誉毀損罪が成立します』(尾﨑英司弁護士)
ここまでは、セクハラやパワハラの刑事上の責任について伺いました。
次に民事上の責任を教えて下さい。
『刑罰を科される犯罪とまではいえなくても、民事上の責任が認められ、使用者や加害者に対し慰謝料等の損害賠償を請求できる場合があります』
精神的な被害に対する賠償として慰謝料が認められるのは当然のことかもしれません。
しかしどうやってセクハラやパワハラがあったということを証明するのでしょうか。
『民事上の責任が認められるためには、両者の関係、行為態様・場所、相手方の地位、指導の範囲内にある行為か等々の事情が考慮されてセクハラ・パワハラ行為が違法な行為と評価される必要があります』(尾﨑英司弁護士)
セクハラやパワハラを理由に退職し、その後精神障害を発病。それが原因で社会復帰に時間がかかってしまうというケースは聞いたことがある方もいるでしょう。しかし、そこで注意するべきは時効の存在です。つまり時効が過ぎてしまうと訴えたくても訴えることができなくなります。それでは先ほどのセクハラ・パワハラの時効を聞いてみましょう。
『上記犯罪の公訴時効については、強姦罪・傷害罪が10年、(準)強制わいせつ罪が7年、暴行罪・脅迫罪・名誉毀損罪が3年、侮辱罪が1年となります』(尾﨑英司弁護士)
『民事上の責任を追及する際の時効は10年(債務不履行)あるいは3年(不法行為)となります』(尾﨑英司弁護士)
セクハラやパワハラの立証は比較的難しいと言われています。時間が経過するとともに、関係者の記憶が曖昧になり、証拠がなくなってしまうということがその理由です。
もしも慰謝料請求を決意した時点が、既に3年の時効を過ぎていた場合は、会社を相手に「安全配慮義務違反(債務不履行 時効10年)」を理由にして訴訟を提起することも可能です。
10年となると比較的余裕があるように思えますが、それでもやはり、早いに越したことはないのかもしれません。