HOME > 法律コラム > 中小企業や零細企業にとって、今最も恐ろしいのは未払賃金問題!?
一般に、会社と従業員の関係は対等ではないと言われています。何故なら給料を払う立場である会社には、従業員が生活をしていく上で必要不可欠なお金の差配を握っている強みがあるからです。
もしも、会社から不条理な要求をされた場合、「断ったら給料が下がる」や「クビにされてしまう」などの心配がでてしまうと、誰も会社に対してものが言えなくなってしまいます。そこで憲法28条では労働者に団結する権利、つまり労働組合を認め、また労働法では争議権行使の一つとして、いわゆるストライキも行うことが可能です。
今回は、労働組合やストライキ、ブラック企業問題などに触れながら、中小・零細企業にとって最も恐ろしい問題となりつつある未払賃金の問題を、高橋和央弁護士に聞いてみました。
「正当なストライキは、労働者の権利ですので、ストライキをしたことにより法律上の責任を負わされないとされています。しかし、実際には、『正当なストライキ』か『正当でないストライキ』かが事前に明確に判断できない場合もあります」(高橋和央弁護士)
「ストライキに参加したことで企業側から責任を追及された場合、裁判でストライキの正当性を争い、最終的には労働者の言い分が認められる判断がでたとしても、裁判で争っている間、事実上、労働者はとても不安定な地位におかれることも覚悟しなければなりません」(高橋和央弁護士)
ストライキは、その間給料がでないことが原則になっていますので、当然かもしれません。
「終身雇用を前提に、『一生この会社で働くんだ』という意思を持った労働者であれば別ですが、最近は、『そんなブラック企業は辞めて転職先を探す方がよい』という考え方も多く、ストライキを武器に企業と闘い労働条件を改善していくという考えを持つ人が少なくなっているように感じます」(高橋和央弁護士)
「もっとも、このことは、必ずしも企業側が有利になったということではありません。」(高橋和央弁護士)
「最近は、円満退職したはずの元従業員から未払賃金の請求を受けるという事案が目立っています。例えば、時間外手当の計算が法律の基準を充たしていなかったようなケースでは、全ての従業員に対して、一斉に過去の時間外手当の不足分を支払うとなると、中小企業では会社が倒産してしまうような莫大な金額になることも珍しくありません」(高橋和央弁護士)
長い時間をかけて、またそれなりのデメリットも覚悟しながら条件改善を争うよりも、転職したほうがまし、と考えるのは自然なことかもしれません。そしてそういった人たちの多くが、退職と同時に残業代等の請求を行うということでしょう。
「このような場合、労働組合としてみれば、仮に、法的には正当な要求であっても、その要求を実現することで会社自体が倒産してしまうということになると、従業員は職を失うことになりかねないという点に配慮するでしょう」(高橋和央弁護士)
「ところが、退職した元従業員からしてみれば、辞めた会社が倒産しようがそんなことは知ったことではない。むしろ、倒産の危機に瀕するような状態なら、倒産される前に、1日も早く払うべきものは払ってもらうことを考えるでしょう。企業からみると、むしろ、恐ろしい時代になってきていると言えます」(高橋和央弁護士)
在籍中であれば、人間関係や報復人事などの心配から、やむなくサービス残業せざるを得ないかもしれません。しかし辞めてしまえば、そんなことは全く関係ありません。現在、未払賃金問題で紛争になっている事案は、間違いなく氷山の一角に過ぎず、今後増えていくことは間違いないでしょう。