HOME > 法律コラム > 「先生、勝てますか?」=「回収できますか?」 訴えてもメリットが少ない訴訟とは?!
弁護士であれば、きっと尋ねられる回数が多いだろう「先生、勝てますか?」という質問。
裁判は、勝負の明暗がはっきりと分かれるので、相談者からすれば当然の質問かもしれない。しかし裁判に勝ったところで、メリットが少ないということが、事前に分かっていたとしたら、そもそも訴訟を提起する気になるだろうか。
今回は、訴えたとしてもメリットが少ない事例について、安田庄一郎弁護士に寄稿して頂いた。
民事で訴訟を提起する場合、相手方(被告)は、裁判所に対し、答弁書や準備書面などで反論しなければ、訴えた側(原告)の主張がそのまま通ってしまうため、事実上対応を強制されます。
そして、裁判所の判決で原告の主張が認められた場合、これに基づいて被告の財産を差し押さえる等の強制執行を行うことが可能となるため、任意の話し合いでは債務の支払に応じない相手方であっても、強制執行を避けるため、支払に応じる可能性が高くなります。
しかし、あくまで訴訟は、そこで請求する権利を実現するための手段に過ぎないので、仮に勝訴しても、以下に述べるように権利の実現が期待できない場合や、勝訴によって得られる利益が、訴訟にかかるコストを下回るような場合、権利を実現する手段として訴訟を選択するメリットは少ないといえます。
(1)【相手方(被告)からの回収が見込めない場合】
金銭を請求する場合、相手方にそれを支払う能力がなければ、いくら訴訟で勝訴しても、回収はできません。
(2)【相手方から回収できる金額が訴訟のコスト下回る場合】
訴訟を提起する場合、まず、訴状に貼付する収入印紙が必要となりますが、これは仮に100万円を請求する場合でも1万円であり、訴訟に必要な切手代(これも原則1万円以内)と合わせても、それほど高額ではありません。
ただ、訴訟について弁護士に依頼する場合、弁護士費用が別途かかることになります。事件の内容や請求額によって弁護士費用は異なりますが、被告に請求する額が弁護士費用より少ない場合には、原告の請求が100%通った場合でも、損をすることになります。
もちろん、弁護士に依頼せずに本人が裁判を起こすことは可能であり、この場合ほとんど費用はかかりませんが、他方で、訴訟に必要な書面の作成、証拠収集、裁判所への出廷などを自分で行わなければならず、その時間的コストを考慮する必要がありますし、事件の難易度によっては弁護士に依頼すべき事案もありますので、慎重に検討する必要があります。
いずれにせよ、訴訟に必要なコストが、勝訴によって得られる金額に見合わない場合、訴えるメリットは小さいといえます。