HOME > 法律コラム > マニフェストを守らない政治家は詐欺罪?マニフェストってそもそも守る義務があるの?
最近、国政選挙になると各党がこぞって出す「マニフェスト」。
つまりは選挙公約のことですが、有権者が選挙公約に共感して個人候補者や政党に投票しても、結局、政権政党がその公約が守らないということがしばしばあります。
心の中では「詐欺!!」「騙された!!」などと感じる有権者の方も少なくないことでしょう。
実際、マニフェストを反故にした政権政党や政治家は、詐欺罪に問われることはないのでしょうか。あるいは、なんらかの法的責任が生じることはないのでしょうか。
寺林智栄弁護士に話を聞いてみました。
詐欺罪とは、「人を欺いて財物を交付させた場合」に成立する犯罪で、該当すると1か月以上10年以下の懲役刑が科されます(刑法246条)。
「人を欺いて財物を交付させる」とは、金品を取る目的で他人を騙し、その結果、騙された人から金品を受け取る場合を指します(受け取ることができなかった場合には未遂罪となります)。
政治家や政党が選挙前にマニフェストを掲げたとしても、それで有権者を騙そうとしていたかどうかはわかりません。正当にそもそも金品を取る目的があったとはいえません。
また、有権者も、騙されて政治家や政党に金品を渡すわけではないので、詐欺罪にはならないのです。
マニフェストは、発祥の地イギリスでは「有権者との契約」などと言われているようですが、当然売買などの通常の「契約」とは異なります。
これに反する結果となったからといって損害賠償責任のような法的責任を問われることはありません。
また、マニフェストの効力はいつまで続くのかということが気になる人もいると思いますが、その点に関するルールもありません。違反に対する罰則もありません。
マニフェスト違反については、法的な責任は発生しないのです。
しかし、マニフェスト違反を行った政権に対して、有権者は何の責任も問えないわけではありません。次の選挙で投票しないことによって政権から脱落させるという政治責任を問うことが可能です。
ただ、日本では、国民が直接政権を倒すことができる制度は採用されていないので、マニフェスト違反があったとしても、なかなか選挙に持ち込むことができず、結局有権者が政治責任を問うのが難しいといわざるを得ません。
そう考えると、マニフェストは「言いっぱなしでも構わない」ある意味とても無責任なものとも思えます。