HOME > 法律コラム > 損害賠償を請求する場合、どうして被害者に立証責任があるの?悪魔の証明とは?!
「友人がお金を返してくれない」、「突然殴られて入院した」、「貸していた車を廃車にされた」、「交通事故に遭った」ーー揉め事があった場合、そもそもそれが起こった事実、またそれによって損害を被ったこと、そしてその事実と損害の間に因果関係があることを証明するのは被害者である。
被害者はそこで、立証責任を果たせないと、十分な請求が認められない可能性がある。なぜなら加害者も反論する可能性がありえるからだ。
ではこれが逆に加害者に立証責任があった場合、どうなるだろうか。
今回は、立証責任や主張責任、悪魔の証明などについて井上義之弁護士に伺った。
まずはそもそも立証責任と主張責任の意味を伺った。
「証明を要する事実の存在が主張されないことによって法律効果の発生が認められないという一方当事者が負うべき不利益を『主張責任』と言います」(井上義之弁護士)
「証明を要する事実の存在が真偽不明に終わったために法律効果の発生が認められないという一方当事者が負うべき不利益を『証明責任(立証責任)』と言います」(井上義之弁護士)
例えば、お金を返してくれないということを例にした場合どうなるだろうか。
段階として、まずはそもそもその事実(お金を返してくれない)を主張する必要がある。主張しないと、その事実はないものとされ、お金は一生返ってこないことになる。この不利益を主張責任という。
続いて立証責任は、その事実や主張(お金を返してくれない)が正しいかどうかが問われ、認められない場合によって生じる不利益を意味する。
ではどうして被害者に立証責任があるのか伺った。
「不法行為があった場合、被害を主張し損害賠償を請求する側が主張責任・証明責任を負うものとされています。その理由は、民法709条の体裁に加え、消極的事実の証明が困難であるためと考えられます」(井上義之弁護士)
消極的事実の証明とはなんだろうか。
「具体例で説明しましょう。XがYの過失により物を壊されたとして不法行為に基づいて損害賠償請求を起こしたとします」(井上義之弁護士)
「仮に、Yに証明責任があるとすると、Yは全く身に覚えのない話であっても、民法709条に該当する事実がないことを証明するという困難を強いられ、事実の不存在について真偽不明の場合敗訴してしまうことになりかねません」(井上義之弁護士)
「そこで、公平性などを考慮し、被害を主張する側が民法709条に規定された事実を主張、立証しなければならないというルールになっています。なお、以上は原則的なルールの説明であり、自賠法等で一定の修正がなされる場合もあります」(井上義之弁護士)
被害者:「あなたの運転していた車に轢かれました。治療費と慰謝料を払ってください」
加害者:「ん?轢いていませんし、そもそもあなたは誰ですか?」
被害者:「轢いてないというなら、それを証明してください」
加害者:「だからあなたは誰ですか? 何の話をしているんですか?」
被害者:「轢いていないと証明できないなら、轢いたことになります。慰謝料と治療費を払ってください」
話として無茶苦茶であることがわかっていただけると思うが、加害者に立証責任が生じるとなると、このような言いがかりまでまかり通ってしまう。
このように、存在しない事実を証明することを悪魔の証明という。
悪魔の証明は到底不可能なため、民法でも規定されていると井上義之弁護士も触れてくれた。しかし、これは法律にかぎらないだろう。何かについて議論する場合、まずは「ある」と主張する者が、それを先に証明しなければならない。これは議論の最低限のルールでもあるので、是非気をつけていただきたい。
「幽霊がいないことを証明できますか?証明できないなら幽霊はいることになりますね」