HOME > 法律コラム > 患者側の勝訴率が低い医療訴訟の中でも、院内感染について争う場合は?
兵庫県の三田市大原にある国立病院機構兵庫中央病院で、患者と職員の合計56人が下痢嘔吐などの症状を訴えていることが7日に分かった。
報道では、20人からノロウィルスが検出され、院内感染の可能性もあるという。病院は、症状が悪化した人はいないと発表しているため、今回は大事に至らずに済みそうではあるが、医療事故や医療過誤は、一つ間違えば取り返しの付かないことになり、場合によっては医療訴訟にまで発展する。
しかし、ご存じの方も多いかもしれないが、医療訴訟は患者側の勝訴率が低いと言われている。
そこで今回は、医療訴訟を専門にしている森谷和馬弁護士に、報道でもあったような院内感染に絞って、色々と話を伺った。
院内感染で争う場合、患者側が立証すべきポイントは三つある。
一つ目は、その患者が、入院中に細菌やウイルスに感染した事実。
二つ目は、入院期間中に、その細菌やウイルスが病院に存在した事実。
三つ目は、病院側の過失によって、患者が細菌やウイルスに感染した事実。
いずれも簡単ではない。そもそも医療訴訟における、患者側の勝訴率はどれくらいだろうか。
「患者側の勝訴率(請求の一部が認められたケースを含む)はせいぜい3割前後で、一般の民事事件の半分以下です」(森谷和馬弁護士)
では、これが院内感染を争うとなった場合はどうだろうか。
「その中でも、院内感染を起こした責任を追及する裁判では、患者側が勝訴する見込みは小さいと言えます」(森谷和馬弁護士)
冒頭でも触れたが、院内感染で争う場合、病院側に責任を認めさせるための立証が非常に困難である。つまりそれは敗訴の可能性が高いことを意味する。では、その中でも患者側の主張が認められたケースとはなんだろうか。
「院内感染に関して患者側が勝訴する可能性があるとしたら、感染させた責任ではなく、感染後に適切な治療を怠った責任を追及するケースということになるでしょう」(森谷和馬弁護士)
「これなら、患者がいつどこで感染したのかという難しい立証の必要がなくなり、感染後の診断と治療の是非を問うという、一般の医療過誤訴訟と同じような形で裁判を進めることになります」(森谷和馬弁護士)
通常の民事訴訟では、訴えた側の勝訴率が8割と言われている。またその多くが「金銭を目的とする訴え」であると裁判所は発表しており、その数は全民事訴訟の9割を占めるという。
確かに医療訴訟でも、巨額の賠償金に目を引くことがある。しかし、それ以前に、患者側の勝訴率は約2割だと最高裁は伝えている。つまりどれだけ賠償金を求めたとしても、それが認められない可能性のほうが高いのだ。
では勝つ可能性が低いにもかかわらず、何故訴えるのか。医療訴訟の本当の目的とはなんなのか。
それは真実を明らかにすることと、病院からの謝罪、そして再発防止ではないだろうか。お金だけが訴訟の目的ではないということだろう。