HOME > 法律コラム > うつ病の最大の敵は復帰への焦り?復帰の申出に経営者はどう対応すべき?
厚生労働省が三年に一度発表する「患者調査」には、うつ病等を理由に医療機関を受診している患者数が約111万(2014年)に上ったと記録されている。2011年と比較して16%増加し、年齢別では40歳代が最も多かった。
うつ病は、薬による治療を除けば、十分な休養が必要だと言われている。しかし社会人となれば、仕事を休む必要がでてくるだろう。ある調査によると、休職の平均期間は79日だと言われているが、実際はもっと長引いているケースもあるという。では何故長引くのか。実は、早く復帰しないと迷惑がかかってしまうという「焦り」が一つの原因だと言われている。
さて今回はうつ病だった社員が、職場に復帰したいと申し出てきた場合、経営者としてどう対応すべきかを加塚裕師弁護士に伺った。
「休職していた労働者から職場復帰の申出があった場合、その復帰の可否を判断するのは使用者です。この点、就業規則等に復職可否の条件・判断基準が定められていれば、それに依拠して判断します」(加塚裕師弁護士)
休職や復職について、こうあるべきだという法律は存在しない。では何で判断するかというと、各企業が定めた就業規則に則って休職・復職に対応することになる。
では、そもそも就業規則がなかったり、あったとしても休職復職についての規定が存在しない場合はどうなるのだろうか。
「仮に就業規則等に明確な定めがない場合、一般的な判断基準としては『治癒』という概念を用います」(加塚裕師弁護士)
治癒とはなんだろうか。
「『治癒』とは、『従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したとき』を意味しており、使用者においては、主治医、産業医の診断書などを参考資料としつつ労働者が『治癒』しているか否かを判断することになります」(加塚裕師弁護士)
なるほど。つまりうつ病から抜け出すことができているか、また復職しても、仕事を以前と同程度こなすことができるかどうかを、専門家の意見を参考にして決めるということだろう。
「なお、過去の裁判例では、当初、他の軽易な業務に就かせれば、程なく通常業務に復帰できるという回復ぶりであれば、企業はそのような配慮をすべきとするものがありますので、使用者が行う判断においてはその点の考慮も必要です」(加塚裕師弁護士)
まずは軽い仕事をこなし、次第に以前の仕事に戻れるほどの回復ぶりであれば、復職を認めるべきだという過去の判例もあるという。
冒頭で述べたように「早く職場に復帰しなければ迷惑がかかる」という焦りがうつ病を長引かせる。また、焦らせまいとするための周囲のフォローですら逆手にとってしまうということもあるという。
しかし、それはうつ病からの回復に、家族や職場からのフォローが必要ないという意味ではない。
もしも焦りによって症状が長引きそうな場合は、そもそもその焦り自体を、「誰もが通るべき道」ぐらいに考えてみるのもいいかもしれない。それは、本人は勿論のこと、家族や職場の仲間なども含む。その方が関わるみんなが心理的には楽になれるのではないだろうか。