HOME > 法律コラム > 国際競争力向上の為の法人税減税。しかし消費税や相続税などの個人増税の引き金でもある法人税減税。どう考えますか?
先般、法人税減税の方向性が骨太の方針に明記され、数年で法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指すという方向性が打ち出されました。
これだけ見ますと、企業の税負担が少なくなり、企業の国際競争力が強まる、といった印象をお持ちの方も多いと思いますが、実際のところ法人税減税が実現すると、我が国の税制上、大きな問題が生じることにもなります。
一つは、各方面から指摘されているように、法人税減税が実現すると、個人にその減税分のしわ寄せ増税が行われる、ということです。
周知のとおり、消費税は平成26年4月1日から8%に引き上げられていますし、平成27年からは、相続税が大きく増税されることが決まっています。
これにとどまらず、サラリーマンの必要経費とも言える「給与所得控除額」(給与収入に応じて一定金額を控除できる控除額を言います)は、世界的に見て日本は大きいため、より一層の制限が必要と指摘されていますし、会社役員など、いわゆる高額の給与所得者に対しては、別途給与所得控除額の制限が必要である、といった指摘もなされています。
法人税減税が実現すれば、それを根拠に「国民の皆様に負担をお願いしなければならない...」といった話が頻繁に政治家から行われることになるでしょう。
もう一つは、法人税減税の恩恵を受けるはずの企業にも、いろいろな制限がかかってくることです。
法人税の問題として指摘されることも多いのですが、日本の税制上、設備投資を奨励するといった目的から、租税特別措置といわれる政策減税が多数設けられています。
実際のところ、この政策減税については、政治目的を達成するのではなく、業界団体の要望によって設けられているものも多数あると言われており、政治とカネの癒着という問題の中で批判されることも多いものです。
しかし、この租税特別措置は政治家にとって票集めの道具という側面が強いですから、今まで特に見直しが図られてきたわけではありません。
しかし、法人税減税が実現すると話は別です。
法人実効税率1%当たりの減税効果は約4,700億円と試算されていますので、租税特別措置を広げてしまうと財源がとても足りなくなるからです。このため、租税特別措置は基本的に廃止の方向で見直す、といった方向性がすでに打ち出されているのです。
利権を制限する、という考え方からすれば、即問題があるとは言えないものの、租税特別措置を使ってきた企業にとっては、いくら法人税率が下がるとは言っても、おいそれとは受け入れがたい税制改正が行われることになります。
政治家の発言を見ますと、国際的競争力という観点から、法人税減税が必要という結論ありきで動いていることがよく理解できます。
しかし、その反面上記のような問題も生ずるわけで、このあたりまで深く検討し、有用な租税政策を打ち出すべきと考えます。