HOME > 法律コラム > 有名な相続税対策「小規模宅地等の特例」と「家なき子の特例」(松嶋洋)
相続税の節税として、必ず使われる制度の一つに、小規模宅地等の特例があります。これは、被相続人の居住用や事業用の宅地を相続し、その相続した相続人が居住の用に供した場合や事業の用に供した場合などに認められる特例です。
このような特例が認められるのは、被相続人が住んでいたり、事業として使っていたりした宅地については、相続人が引き続きこれらの用途に使うのが通例であるため、これらにまで高い税金をかけるのは妥当ではない、と考えられているからです。このため、小規模宅地等の特例を適用する場合には、相続人が居住の用に供するなど、継続的に同じ用途に使うことが前提となっています。
しかし、この例外として、家なき子の特例というものがあります。家なき子の特例は、以下の要件を満たす場合に、被相続人の宅地を相続した相続人に認められるものです。
(1)被相続人に配偶者又は一定の同居親族がいないこと
→ イメージとしては、被相続人が一人暮らしであることです
(2)相続人が、相続開始前3年以内に、その相続人又は相続人の配偶者の所有する家屋に居住したことがないこと
→ イメージとしては、過去3年、例えば社宅住まいであることなどです。
(3)被相続人が住んでいた宅地を相続した相続人が、その宅地を相続開始時から相続税の申告期限まで引き続き所有していること
→ 相続税の申告期限(相続開始日から10か月)までに譲渡するなどすると、適用はありません。
マイホームを所有していない場合などに認められる特例、という意味で家なき子の特例などと言われていますが、上記の要件を見ていただくとわかる通り、過去3年マイホームに住んでいなければ足りる話であり、マイホームを持っていないことまで要件になっているわけではありません。
このため、例えば会社の命令で家族ぐるみで地方に転勤して社宅に住んでいたり、マイホームはあるものの、別の部屋を賃貸してマイホームは他人に貸していたりするような場合でも、原則として対象になります。
マイホームは持っていないが相続により家を取得する、といったケースはかなり多くありますので、対象になるのであれば、利用したい特例です。
ただし、小規模宅地等の特例はさまざまな要件もあり、かなり難しい制度ですので、税理士などの専門家とよく相談しながら適用してください。
●執筆:元国税調査官・税理士 松嶋洋 WEBサイト
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。国税局を退官後は、税務調査対策及び高度税務に関するコンサルティング業務に従事。