HOME > 法律コラム > 個人事業主から法人化する際の税務上の注意点(松嶋洋)
個人事業主で行っていたビジネスが大きくなると、節税やリスクヘッジのために事業の形態について、会社を設立するなどして法人にする必要が生じます。すなわち、法人成りということですが、法人成りをして個人事業で使っていた資産を法人に移す場合、法人に資産を売却したとして譲渡所得の課税問題が生じます。
なお、事業用の資産を売ったとして取り扱われますので、消費税の納税義務があるのであれば、その資産の売却に対し、消費税の問題も生じます。
法人に資産を売却したといっても、問題になるのはその金額です。この場合の金額は、原則として時価によるべき、とされています。
個人の事業用に使っていた機械や車などの固定資産の場合、原則としてこの時価は法人なりの直前の帳簿価額とされています。譲渡所得の計算上、売った金額(譲渡収入)から帳簿価額(取得費)を差し引いて計算しますので、結果としては譲渡所得の金額はゼロ円と計算されます。
このため、法人成りしたからといって譲渡所得を申告するケースはほとんどありません。しかし、消費税はかかりますので、この点注意が必要です。
その他、法人を作って事業を行いますので、税務署に所定の届出を行う必要があります。
具体的には、法人の設立届や青色申告の承認申請書、そして給料の源泉所得税の納税を半年ごとにする納期の特例の申請書などを提出することが通例です。
青色申告の承認申請書や納期の特例の申請書は、申請しない限り適用されないこと、そして提出期限がある書類ですので、失念しないよう注意する必要があります。
ところで、個人事業主が法人成りすると、その前後で所得税の税務調査が行われることが多くあるようです。税務署は縦割り行政ですので、法人と個人で担当が分かれています。法人成りをすると、個人の担当部署から法人の担当部署に管理が変わることになりますので、その前に個人の担当部署で個人事業主時代の申告について調査をする、ということが多くあるようです。
税務調査が入ると言っても、不正取引などやましいことがなければ何も問題がありませんが、税務署が来るとなると大変ですので、法人成りに際しては、予め個人事業主時代の申告内容を見直しておくことも必要になります。
●執筆:元国税調査官・税理士 松嶋洋 WEBサイト
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。国税局を退官後は、税務調査対策及び高度税務に関するコンサルティング業務に従事。