HOME > 法律コラム > 相続税の評価額と時価の違いを税理士がわかりやすく解説(松嶋洋)
相続税の計算を行う場合、相続財産を評価する必要があります。この評価は法律上、相続があった時点の時価とするとされていますが、実務上は国税庁が決めている財産評価基本通達という通達に基づいて計算します。
この通達に基づいて計算される金額ですが、その金額はあくまでも相続税の計算における時価であることに注意する必要があります。相続税以外にも、法人税や所得税で時価が問題になることがありますが、この場合の時価を相続税評価額として申告すると、認められない可能性があります。
相続税評価額は、あくまでも相続税の計算上の割り切り、というスタンスであり、所得税や法人税で使われるべき時価、すなわち取引されるべき価額とは異なるというのが国税庁の理解であり、裁判所もそれを認めています。実際のところ、土地や建物については、相続税評価額をそのまま使うのではなく、8割(土地)ないし4~5割(建物)で割り返した金額が所得税や法人税で使うべき時価と言われます。
このため、相続税評価額で建物や土地を譲渡すると、後日取引金額が時価よりも低いとして、課税されることがあり得ます。
ただし、個人間で譲渡する場合には、相続税評価額で譲渡しても原則課税問題は生じないと言われます。
個人間で譲渡する場合、その譲渡金額が時価に比べて著しく低い場合には、譲渡金額と時価の差額を売主が買主に贈与した、とみなされます。このため、時価で譲渡しないとまずいと言われるのですが、問題になるのは時価に比べて著しく低い場合であり、時価より多少低くても問題ありません。
何をもって著しく低いかが問題になるわけですが、この点明確な規定は法律にはないものの、相続税評価額で譲渡するのであれば、これに当たらないとした判例があります。加えて、多くの学者も同じ考えを持っていますので、原則問題ないと言われます。
法律に明確に書かれているわけではありませんので、相続税評価額で譲渡しても、時価より著しく低いと国税から指摘される可能性はあります。しかし、仮にこのような指摘をするのであれば、国税が適正な時価を立証しなければなりません。
時価の立証は非常に難しく、国税としてはあまりやりたくありませんので、スルーされる確率も大きいです。
●執筆:元国税調査官・税理士 松嶋洋 WEBサイト
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。国税局を退官後は、税務調査対策及び高度税務に関するコンサルティング業務に従事。