HOME > 法律コラム > 2年が経過した特定秘密保護法。もしも知らぬ内に違反をしていたら?
特定秘密保護法が施工されてから、今月10日で2年が経過した。
特定秘密保護法は、政府が指定した国の安全保障に関わる重要な情報を漏らしたり、不正に取得しようとした人に重罰を科すという法律である。現時点では当初懸念されていた国民の「知る権利」をおびやかす事態は起こってない。とはいえ国民の「知る権利」が侵害されているかどうかについてのチェック体制は、今もなお不十分であると言われている。
そこで今回は改めて特定秘密保護法について基本的な事をおさらいしたい。もしも私たちが特定秘密保護法を違反した場合、逮捕状には具体的に漏洩した情報が記載されない可能性がある。つまり何を漏洩したか一切わからずに逮捕されるということである。この点について星野宏明弁護士に話を伺った。
もしも秘密保護法違反で逮捕された場合、逮捕状に漏えいした秘密の内容が書かれないことがありえる。この場合、何を漏洩したことで罪に問われているかわからない。つまり、もしも無実だとしてもその無実の理由を証明できないのではないだろうか。
「確かに、逮捕状や起訴状の被疑事実、公訴事実において、処罰理由となっている漏えいした秘密が記載されないと、被告人の防御の観点からは、防御対象が不明確となり、刑事手続の権利保護に支障が生じるおそれはあります。特定の秘密を洩らしたことを処罰する以上、処罰対象となった秘密の内容を逮捕状や起訴状に記載しないとなると、被告人の防御が困難となる場合があるのは、容易に想像できます」(星野宏明弁護士)
やはり何の情報を漏洩したのかがわからなければ、被告人には圧倒的に不利と言わざるをえないだろう。
ではこのこと自体が憲法違反、あるいは刑事訴訟法違反にならないのだろうか。
「直ちに憲法違反あるいは刑事訴訟法違反となるかというとそうともいえません。逮捕状の被疑事実の実質的内容として、どこまで記載する必要があるかは、一概には決まっていません。基本的には、犯罪の成立と処罰対象が明確化できて、被告人の防御に大きな支障がなければ,違法ではないと考えられます」(星野宏明弁護士)
「これは、特に捜査の初期(逮捕)段階では、一般に捜査機関も犯罪の詳細まで把握できないことがあり(詳細を捜査するために逮捕するのです)、あまりにも厳格な特定を求めると、捜査・治安維持に不都合が生じるためです。例えば、被害者がいない覚せい剤使用事案では、『5月1日から5月8日頃までの間』『東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県またはその周辺において、覚せい剤を使用した』というレベルの特定だけで被疑事実が記載されることが多いです。被害者がいないため、詳細は特定できないが、犯罪が成立するための要件が立証できれば、それでよいのです。」(星野宏明弁護士)
なるほど。確かに全てを把握した状態で逮捕しなければならないとなると、色々と問題が出るだろう。逮捕は、その行為が犯罪であるということが証明できれば問題はないという。
では特定秘密保護法違反も、その漏洩した情報が何であるかを明確にすること無く、漏洩したという事実さえ確かであれば、問題ないということだろうか。
「特定秘密について考えてみると、処罰対象の明確化の観点からは、ある特定秘密がたしかに存在し、それを漏えいした、ということさえ記載されれば、最低限足りると思われます。あとは個別事案ごとに、例えば問題となっている秘密の件数が多い場合には、いつどの秘密漏えいの件を処罰しようとしているのかを明らかにする必要が生じることもあるでしょう。実際の刑事裁判の実務がどう動いていくかは、個別の事案ごとに、弁護人からの特定の求めと裁判所の判断次第となります」(星野宏明弁護士)
2015年時点で、政府が指定した特定秘密保護法の対象となる情報は433件、27万2020点に及ぶという。そしてこれを衆参各8人の委員で審査するのだが、依然としてその体勢は疑問視されている。私たちには、この特定秘密保護法が正しく運用されているかどうか、引き続き注目しなければならない。