HOME > 法律コラム > 相続税の申告期限を過ぎても小規模宅地の特例を受けることは可能?要件は?
前回も申し上げましたが、相続税の申告義務は、相続財産の総額が相続税の基礎控除を超える場合に発生します。ここで誤解が多いのは、相続税を計算した結果、相続税が産出されず納税額が出ない場合にも、申告義務がないと勘違いすることです。
相続税には、配偶者が取得する財産が法定相続分(1億6千万円に満たない場合には1億6千万円)までであれば税金がかからない配偶者の税額軽減や、居住を継続する宅地などについて評価額を大きく減額する小規模宅地の特例などの減額措置があります。これらの減額措置を使うことで、結果として納税額が出ない場合がありますが、これらの特例は申告して初めて適用されることになりますので、申告がない場合には適用を受けることができません。つまり、特例的な措置を使った結果として納税額が出ない場合には、申告が必要になるのです。
いずれにしても、これらの特例を使う場合には、確実に申告が必要になります。
このように申し上げると、これらの特例を使うための申告は、確実に相続税の申告期限内に行う必要があるとお考えになるかもしれませんが、所定の場合には、期限後申告でも適用を受けることが可能です。
小規模宅地の特例や配偶者の税額軽減を受けるための手続き的な要件としては、以下の両方を満たす必要があります。
1 申告期限から3年内に遺産分割がなされること。ただし、3年超後に分割がなされる場合について、税務署長に申請し承認を得れば、3年超後でも問題なし
2 申告書に所定の明細書を添付するなどして申告する
2の申告書は期限後申告でも問題ないとされていますので、3年以内に分割がなされていれば問題ありません。一方で、3年を超えて分割がなされてしまうと、税務署に申請書の提出し、その承認が必要になりますので、税務署に対してこれらの手続きを忘れてしまえば、期限後申告を提出したとしても適用を受けられません。
上記の通り、これらの特例を受ける上で重要なことは、申告期限から3年以内に遺産分割が確定するかどうかです。これが確定していれば、最悪期限後申告でも適用を受けることができますので、トラブルが多い遺産分割が早期にまとまるよう、生前から留意しておく必要があります。
なお、申告期限から3年以内であればこれらの特例の適用は問題ありませんが、相続税のトラブルを防止するためにも、申告期限である相続の開始から10月以内に分割協議がまとまるように措置することが重要です。
専門家プロフィール:元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。実質完全無料の相談サービスを提供する。