HOME > 法律コラム > 右折禁止と気付かずに、曲がった先では待ってましたと言わんばかりの警察取締。何で事前に注意してくれないの?訴えたらどうなるの?
右折した先に警察官が立っており、呼び止められました。
「そこの角、右折しましたね」
「しましたけど・・・」
「免許証お願いします」
「どうして・・・」
「そこは右折禁止です」
「えー知らなかった」
詳しく聞いてみると、7時~9時までの時間帯が「右折禁止」だったようです。
「知らなかった」といったのは、よく通る道ではありませんが、前は時間制限がなかったからです。
よくある出来事かもしれませんが、「警察官とは、個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、公安の維持・・・・」と警察法に書かれています。
予防の観点から考えると、右折する前に注意してくれればいいのにと思ってしまいますよね?みなさん一度はご経験あるのではないでしょうか?
そこで事前予告のない道交法違反取締りについてについて濱悠吾弁護士に話を聞いてみました。
確かに他の道路交通法違反取締りとは異なり、オービスでの取締りには、事前に予告看板が設置されています。これはオービスが車内の者の容貌の撮影を伴う捜査方法であり、撮影された者の肖像権及びプライバシー権を侵害する可能性があるため、と言われています。
そのように考えると、肖像権侵害等を伴わない他の道交法違反取締りには、事前警告は不要なのでしょうか?
一般の道交法違反取締りでは、一定の場所で行われるわけではなく、人員の問題もあるので、常に事前の周知を行うことは難しいといえます。しかし今回のようなケースで運転者が納得いかない点は、一定の場所で道路標識が分かりづらくなっていること(=交通規則の周知が不十分であること)を認識しながら、あえて運転者に事前の注意を促さず、事後的に処罰を行うことにあるのではないでしょうか?
このような捜査方法は違法性が問題になる可能性があります。なぜなら捜査の態様が、捜査官が積極的に犯罪を誘発して検挙する「おとり捜査」に類似しているからです。このような「おとり捜査」は国が犯罪を作り出していることなどを理由に、違法な捜査方法とされています。
裁判所は、オービスによる速度取締りの違法性が争われた事案で、①事前警告の必要性、②標識が分かりづらい場所を選定して事後的に処罰を行うことの違法なおとり捜査との類似性、について言及しています。
取締りの事前警告の必要性について、「運転者から警告板の文字等が視認できるか否かは制限速度違反罪の成否を左右するものではない」が、「速度違反取締りが主として自動車運転者の速度違反の抑止効果を最大の目的とするものであるとせられている以上、おとり捜査類似のものであるとの非難を回避するためにも、走行中の運転者から一目瞭然たるものにすることが捜査機関に果せられた責務であると言わざるを得ない。」と述べています。
このことから、事前警告が行われていないことを理由に道交法違反の成否を争うことは難しいですが、警察の職務の適性の観点からはやはり事前警告を行うべきである、といえます。
また、違法なおとり捜査との関係については、「速度違反を生じさせるよう運転者に働きかけた上で取り締るのであればおとり捜査であると言えるが、取締り場所の手前で警察官が指導予告しないだけではおとり捜査であるということはできない。」と述べています。
しかし、「標識または標示が無いかまたは見えにくい場所を選んでの取締りであれば格別、そうでない限りおとり捜査類似のものでもないものと解される。」とも述べており、標識が見えにくい場所を選んで取締まりを行った場合には、おとり捜査に類似するとして違法とみなされる可能性があることを示唆しています。
事例のような取締まりに対して運転者側が訴えを起こすとしたら、警察官の違法行為を理由に、国に対して損害賠償請求訴訟を提起することになります。
しかし、裁判所が警察官の取締まりの違法性を認める可能性は低いと考えます。
本事例の取締まりに違法性が認められるためには、「道路交通規則を運転者に事前に注意する義務が警察官にあったにもかかわらずそれを怠ったこと」が必要です。
しかし、標識が置いてある場合には運転者は道路標識等に気付くのが通常である以上、事前に注意を促す義務が警察官にあったと認められることは難しいでしょう。
確かにこのような取締りは「公共の安全と秩序の維持」を唱えている警察法の趣旨に反するかもしれません。しかしそのことから直ちに損害賠償請求が認められるわけでないことは、一般の人々が社内規則や理念に反する行為を行ったことを理由に、社外の人から責任を追求されることがないことと同じといえます。
・早稲田大学法学部卒業
・中央大学大学院法務研究科修了
・某動画共有サイトを運営する企業の法務部でインターネット上の権利侵害対応業務、知的財産業務を担当
・優和綜合法律事務所所属