HOME > 法律コラム > 賃貸アパートを贈与する場合に借家人から預かっている敷金はどう取扱う?
実務上、相続税対策の一環として、親から子にアパートやマンションなど、不動産投資をしている物件を贈与することがあります。相続財産を減らしたり、不動産投資の収益を子に渡すことで納税資金を作ったりする目的でこのような贈与を行うわけですが、注意しておきたいのはその投資物件に係る敷金です。
アパートやマンションを賃貸する場合、賃借人から敷金を預かりますが、この敷金は将来賃借人に返すべきものですから、負債となります。この敷金を返済する義務については、賃貸している建物の所有者が変わる場合、建物の新所有者に当然に移転するとされています。つまり、親から子にアパートを贈与すれば、親が賃借人に返還すべき敷金についても、同時に子に移転することになります。
敷金を返還する債務が受贈者に当然に移転するのであれば、受贈者は敷金の返還義務を負うことを条件に賃貸不動産である建物の贈与を受けることになりますので、原則として負担付贈与として取り扱われることになります。負担付贈与により建物の贈与を受ける場合、贈与税の対象になるその建物の評価額は、相続税や贈与税の計算で使われる相続税評価額ではなく、実際の時価で評価する必要があります。
建物の場合、相続税評価額は時価の3~4割になる、と言われていますので、負担付贈与になると贈与税の課税対象金額が非常に大きくなります。加えて、負担付贈与に該当すると、負担付贈与を行った者に対して譲渡所得税の課税も行われます。
こうならないよう、当事者間で敷金の精算を行っておく必要があります。
負担付贈与をする当事者間で、敷金の精算をすれば負担付贈与に該当しないとされています。具体的には、親が子に敷金が300万円あるアパートを贈与する場合、アパートの贈与と同時に、親が子に敷金の精算として300万円の現金を贈与すれば、負担付贈与に該当しません。親は子に支払うことで敷金の返済義務を精算していますし、子は敷金に相当するお金をもらうことで、後日賃借人に返すべき敷金にそのお金を充てることができるからです。
なお、この場合親から子に現金を贈与することになりますが、単純な贈与ではなく負債の引継ぎに関するものですから、その現金に対して贈与税の課税対象にはなりません。
専門家プロフィール:元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。実質完全無料の相談サービスを提供する。