HOME > 法律コラム > 事業承継対策に有効な信託が相続税の対策にもなり得る理由と注意事項を解説
現状、事業承継対策において有効なツールと言われているものの一つに、信託があります。信託は、生前の被相続人の意思を的確に事業承継に反映できるツールですので、相続税対策というよりもむしろ、相続対策として使われる傾向が大きいと言われます。
しかし、中には信託を相続税対策にも使っている、というケースがあります。なぜ信託が相続税対策に活きるかと言えば、信託により発行される信託受益権について、複層化できるという性格があるからです。
専門的に、信託受益権の複層化とは、元本受益権と収益受益権に区分することを言います。これだけでは分かりませんので、例えば投資用不動産を信託した場合について考えて見ましょう。この投資用不動産について、信託契約が終了した段階における時価を5,000万円とし、かつ1年当たり800万円の賃料が発生すると仮定すると、
元本受益権→投資用不動産の信託契約終了段階の時価5,000万円
収益受益権→投資用不動産のインカムゲインである800万円/年を基礎として、一定の方法により算定される金額
といった形で区分されることになります。すなわち、元本受益権は信託財産の元本部分であり、収益受益権は信託財産のインカムゲイン部分、このようなイメージになります。
この元本受益権と収益受益権ですが、税の取扱いは別にして、それぞれ受益者を変えるといったこともできるとされています。
このような複層化信託について、国税庁の通達では、以下のような評価になっています。
元本受益権 信託財産の相続開始時の評価額-以下の収益受益権の評価額
収益受益権 相続開始時において推算される将来のインカムゲイン×基準年利率に基づく複利現価率
上記を踏まえると、信託資産が高収益物件の場合、収益受益権の価値が大きくなる一方で、元本受益権の価値が小さくなります。このため、仮にこのような信託を行えば、元本受益権を相続する相続人について、節税になる、といった指摘が見られます。
このような理論はあるにしても、信託に関する税法は極めてあいまいです。このため、上記のような理屈がそのまま通るとは思えませんので、注意してください。
金融庁などが、このあたり明確な法律を作るよう求めていますが、無能な財務省の主税局は、法律を作る力がないため、このような要望を全部無視しています。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は税理士向けのコンサルティングを中心に118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開するとともに、法律論や交渉術に関する無料メルマガを配信中。