HOME > 法律コラム > 福利厚生でお馴染みの「資格取得費と学資金」の課税関係を税理士が解説
企業によっては、従業員に対して、税理士や社会保険労務士などの資格を取得するための費用を補助する場合があります。このような費用補助については、お給料を支払ったことと同様として、源泉所得税の課税問題が生じます。
資格取得費に関する課税関係ですが、仕事に直接必要な資格や免許の取得費用のうち、その費用の額が適正なものであれば、給料として課税するのではなく会社の経費として認められるとされています。このため、例えば運送会社が従業員のために車の免許費用を負担した、というのであれば、その費用が適正なものについては、原則として給与として課税されない、会社の経費になると考えられます。
一方で、税理士や社会保険労務士などの資格については、仕事に直接必要かと言われれば難しい部分もありますので、中々経費として見てもらうのは難しいと考えられます。
ところで、資格取得費とよく似た費用として、企業が交付する学資金があります。この学資金ですが、奨学金をイメージしていただければと思います。学資金については、仕事に直接必要な免許のための費用である場合などについては、所得税の非課税として取り扱われます。
この学資金の非課税措置ですが、平成28年度改正により、その範囲が拡大しています。すなわち、給与所得者(法人の役員や従業員の配偶者に対するものなどは除きます)がその使用者から受け取るもので、通常の給与に加算して支給されるものが、新たに非課税とされることになりました。従来は、お給料に上乗せで支給される学資金は、給与と一緒ということで一律にお給料として課税されていましたが、その取扱いが緩和されています。
この改正ですが、厚生労働省の要請で実現したものです。従来、地方公共団体が医師確保のために、医学生等に対して修学等資金を貸与し、卒業後、地方公共団体が指定する医療機関に一定期間勤務した場合には、その資金の返還を免除する仕組みに対して課税がなされていたことが問題視されたのです。なぜなら、実際に返済が免除をされた場合には、債務免除という形で所得税の対象になるからです。この場合、その医療機関と医学生の間には、雇用関係があるため、その債務免除益はお給料と同等であることになり、結果として給与として課税されることになっていました。
こうなると、医師確保という趣旨にも合わないため、非課税とされたものです。
資格氏取得費にしても学資金にしても、結局は仕事に直接必要かどうかが問われる訳ですが、直接必要という要件は非常に厳しいものです。このため、対象とするのは難しいことが正直なところですから、慎重に対応する必要があります。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は税理士向けのコンサルティングを中心に118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開するとともに、法律論や交渉術に関する無料メルマガを配信中。