HOME > 法律コラム > ハズレ馬券裁判の裏側に隠された「通達」という概念
外れ馬券の購入金額は税金計算上、控除できない。
ニュースで広く報道されていますのでお分かりの方も多いと思いますが、このルールの妥当性について現在裁判が行われています。
ルールがある以上、多少無理があるにしても、それには従うべきと思われるかもしれませんが、このルールは実は法律ではなく、通達といわれるもので決められています。
通達は法律とは異なり、国会で決められるものではありません。
通達は、国税庁が税務署などの下位組織に送る指示命令です。会社などの組織では、当然ながら上司は部下に指示命令を行いますが、それを税に置き換えたものが通達なのです。
言うまでもなく、ある組織の上司が部下に指示命令を行ったところで、それは部下を拘束するだけで全くの他人がそれに従う必要はありません。
通達もこれと同じで、国税庁の通達にその部下である税務職員は従う必要はありますが、税務組織と関係のない国民がそれに従う必要はないのです。
となった場合、先の外れ馬券は控除できない、というルールは国税庁が税務署に守るよう指示しているだけですから、国民はそのルールに必ずしも従う必要はありません。
にもかかわらず、実務上はこの建前がある意味無視されて、納税者や税理士は通達に従って税金計算を行っているのが正直なところです。
従わなくていい通達に従っているのは、通達を無視して申告を行うと、税務署から課税処分を行われるリスクがあるからです。
といいますのも、税務署は通達に従う必要がありますので、通達を無視した申告を是正しなければ、公務員の命令遵守義務違反になるからです。
言うまでもなく、税務署から課税処分を受けて税務署と戦う人はほとんどいません。
親方日の丸を相手にすることですし、金銭的にも精神的にも大きな負担となるからです。
このため、本来なら従わなくていい通達に従った方が、納税者としてはリスクが少ないわけで、結果として通達が幅を利かす、という結論になるのです。
困ったことに、通達も人間が作るものですから、問題が大きいものも中には存在します。となった場合、通達に従うと非常に酷な結果になることもあるのです。
このようなケースについては、本当に従う必要がある法律に照らし、通達が正しいか検証し、疑問が残れば通達に従わず、法律の内容を優先させる必要もあるのです。