HOME > 法律コラム > 自己株式の受贈益を法人税の課税対象とするべきか否かを元国税が解説
平成18年度の税制改正において、会社が自社で発行した株式(自己株式)を取得する取引については、資本等取引に該当することとされました。資本等取引とは、会社の資本金などの金額を増減させる取引を言います。資本とは、ビジネスの元手を意味し、その元手を活用して利益を上げることになりますから、元手である資本については法人税の課税対象とせず、利益だけが課税対象になるとされています。
上記の通り、自己株式は資本等取引ですので、自己株式については法人税の課税対象にならないことになります。
このルールは税務上は常識的なものですが、よく実務で疑問になるのは、自己株式をタダで取得した場合です。上場企業の株式を考えていただければと思いますが、自己株式は法人税の対象にならないとは言っても、他に売却する価値があるものです。このように、価値がある資産をタダで貰った場合、法人税の建前としては、そのタダで貰ったことによる利益(受贈益)に対して課税をするということになっています。
このため、自己株式についても、それをタダで貰えば受贈益に対して課税されるのではないかと言われます。なお、課税される受贈益の金額は、タダで貰った時点のその資産の時価とされています。
この点、実は専門家の中でも意見が分かれています。自己株式は資本等取引に該当するため、そもそも法人税の対象にならないことからタダで貰っても税金はかからないという専門家と、自己株式も資産である以上は、受贈益に対して当然に課税がされるべきであるという専門家に分かれます。
私の見解を申しますと、自己株式の受贈益に対して課税はないと考えています。資本等取引に該当することはもちろんですが、平成18年度改正というのは「史上最低の税制改正」と言われる低レベルな税制改正であり、結果として本来課税するべきものも課税できないような小学生レベルのミスが散見されるからです。このような低レベルな税制改正ですので、理論的に考えることはおかしく、法律をダダ読みするしかないと考えられます。
本来、このような問題は国税がきちんとした見解を出すべきですが、今まで何ら明確なものはありません。姑息な国税組織は、「自己株式の受贈益を法人税の対象とする申告があれば儲けもの」などと考えているのでしょう。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。