HOME > 法律コラム > 成年後見人が選任されるまでに相続が発生した場合の申告期限を税理士が解説
認知症など、精神上の障害により判断能力が不十分な方を保護するための制度として、成年後見制度があります。判断能力が十分でないと、悪徳商法などの被害に合う可能性が大きいことからこの制度が設けられています。この制度の適用を受ける場合には、家庭裁判所に申立てをして、これらの障害がある方(成年被後見人)を援助する成年後見人を選定してもらうことになります。
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その財産の管理などを行います。
成年後見人は財産の管理などについて成年被後見人をサポートしますので、原則として成年被後見人である相続税の申告についてもサポートを行うことになります。具体的には、成年被後見人である相続人が相続税の申告を行う場合には、相続人に代わって、成年後見人が申告書に署名などすることになります。
このように、成年後見人は成年被後見人である相続人の相続税の申告をサポートする訳ですが、よく問題になることの一つに、成年後見人として家庭裁判所に選任されるまでに相続が発生した場合があります。具体的には、このようなケースについて、その申告期限がどうなるかが問題になります。
相続税の申告は、相続があったことを知った日から10月後とされています。この相続があった日とは、通常は被相続人が死亡をした日を意味するとされています。しかし、認知症などの成年被後見人とされるべき方は、「知った」ということに支障がある方ですから、通常のケースと同様に考えることは難しいのです。
なお、成年後見人が決まっているケースは、「知った」ことについて成年後見人がサポートできますので、通常と同様に考えることとされています。
こういう訳で、成年被後見人となるような認知症などの症状がある相続人について、成年後見人が決まる前までに相続が発生した場合の申告期限が問題になる訳ですが。国税の取扱いを見ますと、このようなケースは成年後見人が選任されてから10月以内に申告すれば問題ないとされています。
「知った」ことについて支障がある以上、「知った」ことをサポートできる成年後見人が決まるまでは、相続があったことを「知った」ことにならないため、このような取扱いとなっています。
相続税の申告は、相続人が共同して行うことが通例ですが、上記のようなケースは相続人毎に申告期限が異なりますので、注意が必要です。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。