HOME > 法律コラム > 株の評価に詳しい税理士も頭を悩ます第三者間贈与とみなし贈与
税理士を悩ます論点の一つに、みなし贈与があります。これは、法律的には贈与ではないものの、贈与税の課税上、贈与としてみなす行為を言います。みなし贈与の典型例として、低額譲受益があります。
低額譲受益は、文字通り低い金額で資産の譲受を受けたことによる利益をいいます。例えば、時価1億円の物を1円で取得したとします。この場合、民法上は、無償ではありませんので贈与ではありませんが、実質的には贈与を受けたことと同一ですので、税法上は贈与とみなして、贈与税を課税するとしています。
この取扱いは税務では常識ですが、実務上問題になるのは、M&Aなど第三者間でこのような取引が行われた場合です。とりわけ、非上場株式の譲渡に係る取引で、この低額譲受益が問題になります。
といいますのも、M&Aで決まる、非上場株式の時価と、贈与税の時価を計算する財産評価基本通達の非上場株式の評価方法は大きく異なることが通例だからです。M&Aでは、引退を考えていない売主は、高く売りたいと思っていることが多い反面、引退を考えている売主は、高く売れれば御の字くらいに考えていることも多くあります。
一方で、財産評価基本通達の評価方法では、非上場株式の時価は一定となります。税務上、評価額が上下すると、課税の公平が保てないからです。第三者間の取引金額はバラバラである反面、定額譲受益を計算する場合の贈与税の評価額は一定ですから、それが異なる場合みなし贈与の問題は生じないのか、疑問が残ります。
この点、株の評価に詳しい税理士や、とある税務調査の専門家は、第三者間の取引ではみなし贈与などは問題にならないと解説しています。彼らの解説は、第3者間でまとまる金額は時価そのものだから、というシンプルな理屈に基づくものです。
しかしながら、国税の内規を見ると、第3者間でもみなし贈与はあり得ると明記されています。このため、これらの税理士や専門家の言うことをうのみにしてはいけません。
とは言え、実務上国税が第3者間のみなし贈与を問題にするかと言えば、それはほとんどありません。このため、結果として問題にならないということも多くあります。
このため、先の税理士や専門家の安直な意見ではなく、いったんはみなし贈与のリスクを検討するために適正に株式を評価した上で、その取引金額は最終的には皆様が決断するというのが正しい流れとなります。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。