HOME > 法律コラム > 源泉徴収ありの特定口座でも申告した方がいいケースを税理士が解説
上場株式や上場している投資信託に関しては、特定口座で取引することがほとんどだと思います。特定口座とは、証券会社が年間の取引の損益を計算してくれる口座をいい、この特定口座の取引については、年間取引報告書が交付されます。この年間取引報告書をベースとして、確定申告などをすることになります。
特定口座については、申告の手間を省く目的もあって、特定口座の利益について源泉徴収をする源泉徴収ありの口座と、源泉徴収しない口座の二つがあります。株取引の初心者は、より簡便な源泉徴収ありの特定口座を選ぶよう勧められることが多いです。
この特定口座には、上場株式などの譲渡所得はもちろん、これらの株式から発生する配当所得についても記載され、ともに計算されることになります。現在、上場株式の売買で損失が生じた場合、その損失は上場株式の配当所得と通算することができますので、特定口座年間報告書においては、両者を相殺する形で計算されることになります。
加えて、仮に源泉徴収ありの特定口座であれば、両者を相殺した金額に基づいて、所得税が源泉徴収されることになります。
既に述べた通り、源泉徴収される特定口座の場合、上場株式などに関する所得金額と税額は適正に計算されていますので、敢えて申告する必要もなくなります。しかし、以下の2つのパターンは申告した方がいいと言われます。
1 配当所得と相殺してもしきれない、株の譲渡損失がある場合
2 過去から繰り越された、株の譲渡損失がある場合
1については、上場株式などの譲渡損失は、その後3年に渡り繰り越すことができ、その期間中に生じた上場株式などの譲渡所得や配当所得と相殺することができます。譲渡損失を繰り越すための要件として、譲渡損失の金額を申告するとともに、その後連続して申告しなければならないとされていますので、譲渡損失があれば申告した方が得と言われます。
2については、特定口座は、証券会社が把握している損益を計算する口座ですから、あくまでもその年中のその口座での取引について計算されており、繰り越された譲渡損失を相殺するといった処理はなされていません。このため、その譲渡損失を活用するためには、別途申告して処理する必要があります。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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