HOME > 法律コラム > 相続税の取得費加算の留意点と概算取得費控除との関係を税理士が解説
相続税の負担が大きいため、相続により取得した土地を譲渡するということはよくありますが、このような場合に押さえておきたい制度として、相続税の取得費加算という制度があります。相続により取得した財産には、当然ながら相続税が課税されています。一方で、その財産を売った場合には、譲渡所得税が課税されます。こうなると、同じ財産で二重に税金がかかり、負担が大きくなりますので、一定の場合には譲渡所得税の計算上、控除できる資産の取得費に、課税された相続税の一部を加算して取得費を大きくすることができるというのが、この相続税の取得費加算です。
この相続税の取得費加算の適用を受ける場合、以下の要件を満たす必要があります。
1 相続において、財産を取得していること
2 相続の際、納付するべき相続税が発生していること
3 相続税の申告期限から3年以内に、相続により取得した財産を譲渡していること
これらの要件を満たす場合、原則として以下の金額について、取得費加算することができます。
その者に対して課された相続税額×譲渡した財産の価額(※1)/その者の相続税の課税価格(※2)
(※1)相続税の申告の際の、相続税の財産評価に従って計算される評価額によります。
(※2)債務控除前の、取得した財産の総額を、相続税の財産評価に従って評価した金額となります。
課税される相続税は多額になることが多いため、この制度により加算される金額も大きいことから、上記の要件を満たす場合には積極的に活用したい制度です。この制度上、よく誤解されますが、収入金額の5%を取得費とする概算取得費を採用している場合にも、この取得費加算は適用できます。このため、実際の取得費が分からないようなケースでも、活用することが出来ます。
ところで、農地を相続した場合、その農地に対する相続税を猶予できるという納税猶予の制度があります。この場合、相続税の取得費加算の対象となる相続税額は、猶予した税額を除いて計算することになります。猶予するということは、納税額は発生しているけど納付を待っているということを意味しますので、敢えて猶予税額を控除する必要がないと誤解する専門家も多いですから、注意しましょう。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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