HOME > 法律コラム > 持分なし医療法人への移行における「法人税の交際費の計算」という盲点
医療法人の公益性を高める観点から、現状医療法人は持分なし医療法人しか設立できず、かつ医療法の改正前に設立できた持分ありの医療法人についても、持分なし医療法人に移行することが求められています。この移行について、前回見た通り贈与税のリスクがあることはよく知られていますが、もう一つ、法人税のリスクがあることはあまり知られていません。
このリスクとは、法人税の交際費の計算です。
法人税において、中小法人の交際費は、年800万円までが経費になり、それ以上の金額は経費にならないことが原則です。ここでいう中小法人ですが、資本金1億円以下の法人を意味します。ただし、ここで押さえておかなければならないことは、持分のない法人など資本金のない法人は、1億円の判断を以下の計算で行うことです。
期末総資産簿価-期末総負債簿価-当期利益(または+当期欠損金)×60%
株式会社などの場合、資本金は任意に決められますので、純資産が多くても資本金額が小さい会社は多くあります。このことは持分あり医療法人も同様で、純資産が多いのに資本金が小さく、結果として資本金が1億円以下で交際費は800万円まで経費にしている場合が多くあります。
しかしながら、持分なし医療法人については上記の算式の通りの計算になりますので、過去の利益が大きく内部留保が多額であれば、純資産が大きくなり上記の算式の計算上、1億円を超える場合が多くあります。となると、このような持分なし医療法人は交際費の計算上中小法人から外れることになります。
中小法人以外の法人の交際費は、原則としてその全額が経費になりませんから、持分なし医療法人に移行した後、交際費が経費として認められなくなるといった事態が生じることになります。
贈与税の問題が生じますので、持分なし医療法人に移行するのはハードルがあるといわれます。注意したいのは、課税される贈与税の金額は医療法人の純資産が大きければ大きいほど膨大になりますので、贈与税のリスクを考慮する法人であればあるほど、この交際費の問題も大きくなる傾向があります。
苦労して贈与税の問題をクリアしたものの、交際費の問題で悩む。このようなことのないよう、持分なし医療法人に移行する場合には、慎重に検討する必要があります。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
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