HOME > 法律コラム > 税務調査の事前通知は国税の義務となったが実効性には疑問が残る
平成23年の税制改正により、税務調査に関する手続きが法律に規定されることになりました。この手続きのうち、最も実務で問題になるのは、税務署が税務調査前に原則として行うとされる事前通知です。この事前通知の規定により、不意打ち的に調査されて納税者に迷惑をかけることがないよう、税務調査の実施日や場所はもちろん、税務調査で確認する資料や、税務調査の対象になる事業年度などについても通知することが国税に義務付けられています。ただし、この事前通知の義務は、それほど実効性があるものでないことに注意が必要です。
税理士の先生からよく質問を受けることでもありますが、当初の事前通知では、過去3年分だけ調査すると言われていたのに、調査が進む中で過去5年間調査したいと言われた場合、事前通知の有効性が問題になります。法律上、事前通知した年度以外の年度についても、誤りがあると認められる場合には、調査することができるとされていますので、本当に誤りがあるとは思えない場合にも、国税が調査しようとするのは問題ではないか。このような問題提起がなされています。
この点、この事前通知の条文を見ますと、確かに間違いがあることが疑われる場合に調査ができると規定されていますが、その趣旨を財務省の資料から見ますと、事前通知していない年度についても、間違いがあることが疑われる場合には、調査ができることを「確認的に規定した」とされています。確認的という用語がキーで、確認ということは当然にできるという意味ですから、問題があると認められる場合に「限って」事前通知をしていない年度についても調査ができるという解釈は誤りなのです。
すなわち、結局は税務署の裁量でできる訳で、それを過大評価してはいけないのです。実際のところ、国税が事前通知に関する条文に違反したとしても、それに対して罰則はありません。言い換えれば、国税が違反しても、国税がごめんなさいと言えば、よほどの不手際がない限り、それ以上国税の責任追及はできないということになるのです。
この点、正確に条文を読んだり、趣旨を確認したりすれば誰にも分かる話なのですが、このような地道な作業をすることなく、誤った情報を垂れ流す自称税務調査の専門家が存在するため、誤った情報が流布されてしまいます。
このようなことのないよう、信頼できる専門家に相談しながら、慎重に税務調査の対応をする必要があると言えます。
元国税調査官の税理士 松嶋洋
東京大学を卒業後、国民生活金融公庫を経て東京国税局に入局。国税調査官として、法人税調査・審理事務を担当。現在は118ページにも及ぶ税務調査対策術を無料で公開し、税理士を対象としたコンサルティング業を展開。
※注意事項:記載については、著者の個人的見解であり正確性を保証するものではありません。本コラムのご利用によって生じたいかなる損害に対しても、著者は賠償責任を負いません。加えて、今後の税制改正等により、内容の全部または一部の見直しがありうる点にご注意ください。