HOME > 法律コラム > サルでも分かる「移転価格税制」を専門家が解説!
例えば製造業を営むA社が、日本国内での事業コストは高くなるため、海外に子会社を作り、そこで製造したものを日本に輸入したとします。子会社が製造するコストを10円、国内での販売価格を100円とします。この場合、子会社も利益を出さないと運営ができなくなるので、日本への卸価格を20円にしたとします。
A社の利益:20円で仕入れたものを100円で販売するので80円
子会社の利益:10円で作ったものを20円で売るので10円
しかし日本と子会社がある国の税率では子会社の方が優遇されているため、A社の利益を少なくし、子会社の利益を増やすことも可能です。例えば日本への卸価格を90円にしたとしましょう。
A社の利益:90円で仕入れたものを100円で販売するので10円
子会社の利益:10円で作ったものを90円で売るので80円
こうなると、日本の税収が減って海外の税収が増えますから、それを防止するために適正な価格で取引されていない場合に課税を行う、というのがこの制度なのです。
このような理屈はあるにせよ、取引されるべき適正な価格がいくらになるか、具体的に計算するとなると非常に困難です。現実問題として、第三者間において同じ条件で行う取引、と言われても、こんな取引は存在しないケースが多いことが通例です。
とりわけ、大きな問題と言われるのが、ブランドなどの無形資産がある場合の取引です。言うまでもなく、ブランドがあればそれだけで大きな利益を上げることができますが、ブランドとはその企業グループ独自のものですから、第三者と取引する、ということはほとんどありません。
となれば、ブランドが絡んでいるため多額の利益が動くことは間違いないものの、比較対象となる取引がない、という困った状況になります。
実際のところ、適正な価格かどうかの計算は、その計算が困難であることもあって、税務署のさじ加減によるところが非常に大きい、と言われています。
さじ加減で課税されるとなるとたまったものではありませんから、税務署も情報公開に努めていますが、それでもまだ不十分と考えられています。困ったことに、移転価格税制に基づいて課税処分がなされると、場合によっては数百億円単位の税金が発生することがあります。
このあたり、慎重な対応を税務署も行っていると聞いていますが、実際のところは大きなトラブルになっているケースが多いという印象があります。