HOME > 法律コラム > 従業員にストック・オプション等を与えることの2つのメリットと注意事項
中小企業の事業承継においては、自分の経営する会社の株式(自社株)の評価額が問題になります。
これは、自社株の評価額が大きければ大きくなるほど、自社株を後継者に移転する場合に係る譲渡所得税や贈与税、そして相続税といった税金が大きくなるからですが、このような税負担と直接かかわりがある自社株の評価額を引き下げる方策として、従業員持株会が広く使われています。
自社株の評価額は、会社を支配するために保有するか、もしくは投資として保有するかによって大きく変わり、前者の方が後者よりもはるかに大きな評価額となります。両者の違いは、基本的には株式の保有割合で決まります。
このため、保有割合が大きいオーナー一族が持つ自社株の評価額は非常に大きくなるわけですが、そうではない株主が持つ自社株は、「配当還元価格」と言われる小さい評価額で評価することができます。このため、オーナー一族が保有する自社株の一部を他人に持ってもらうと節税につながるわけですが、その保有先として従業員で組織する従業員持株会が好都合、と言われるわけです。
自社株を一部でも他人に持ってもらうとなると、非常に大きなリスクがあります。一昔前に大きな話題となった村上ファンドなどを考えていただくと分かる通り、株式は会社の経営権そのものですから、株式が分散してしまうと、経営方針に反対する株主が存在するリスクが残ります。
従業員で組織される従業員持株会であれば、社内の組織であり相対的に安心できますし、かつリスクヘッジのために十分な規約等を設けることができます。加えて、ストック・オプションなどを考えていただけると分かる通り、従業員に株式を持ってもらうとなれば、自社の業績がアップすればするほど自社株から得られる配当が大きくなるため、インセンティブにもつながります。
こういうわけで、従業員持株会が広く使われているわけですが、注意点としては、従業員持株会が保有する株式の割合は、大きくても3分の1未満とすべき、と言われています。
定款を変更するなど、会社にとって極めて重要な事項は株主総会の特別決議で決められますが、この特別決議は、議決権の3分の2以上の多数によって決められるとされています。このため、会社の議決権の3分の2以上は、会社を支配するオーナー一族で保有しておくべきなのです。
自社株の節税は、会社支配のバランスも考えながら、慎重に実行する必要があるのです。