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2025年には5人に1人が認知症に!老々介護が進む中、監督責任ってどこまでやればいいの?!

相次ぐ認知症患者による交通事故。特に衝撃だったのは2007年12月に起きた鉄道事故です。
徘徊症状があった91歳の男性が電車にはねられ死亡し、名古屋高裁が2014年4月に妻(91歳)に対して約360万円の賠償を命じました。
判決では夫の徘徊を防ぐ監督義務が、妻に認められたのですが、実は妻も要介護1の認定を受けており、「老老介護」の実態が浮き彫りにされたことで世間を賑わせました。
政府はこういった現状に対して、今月27日に「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」を発表しました。当事者や家族にやさしい地域づくりを目指し、認知症の予防や診断、治療の体制充実が主な概要とのこと。
2025年には、65歳以上の5人に1人が認知症と予測されておりますが、益々進む老々介護において、監督責任がどこまで問われるのかということも非常に重要な問題ではないでしょうか。
今回はその監督責任や義務について荻原邦夫弁護士に話を聞いてみました。

この鉄道事故における監督義務者とは誰でしょうか?

本件では、男性の妻ら家族に、不法行為責任が認められるかが争点となりました。不法行為責任とは、他人に損害を与えた場合に発生し得る責任ですが、本来はその行為者が負うべき責任です。本件では、事故に遭った男性になります。

しかし、その行為者に、責任能力がない場合、つまり、精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある場合は、不法行為責任は認められません(民法713条)。責任能力のない者の行為について非難することができず、責任を負わせることが相当でないからです。

本件でも、判決では、男性に重い認知症を認め、責任能力がない状態であったと認定しました。

民法は、このように責任能力が認められず直接の行為者の責任が認められない場合について、その者を監督する法定の義務を負う者が不法行為責任を負うとしています(民法714条1項)。

本件では、男性の妻及び男性の長男にこの民法714条による責任が生じるかが重大な争点となりました。

この責任を考えるときは、第一に、監督義務者といえるか、第二に、監督義務者が義務を怠らなかったかを考えることになります。

第一について、判決は、男性の妻に監督義務者該当性を認め、男性の長男にはそれを認めませんでした。

監督義務者の根拠は、「法定の義務」であり、代表的なものに、成年後見人や精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)の定める保護者があります。しかし、本件ではこれらの者はおりませんでした。

判決が用いた根拠は、夫婦間の協力扶助義務(民法752条)です。確かにこれも「法定の義務」といえることに間違いはありませんが、この義務が、夫婦間で相互に負う義務という性質を越えて、第三者への損害に対する責任の根拠となり得るかについては、疑問がなくはありません。しかし、監督義務を完全に否定するという判断をすれば、それは結局は被害者が損害を負担することを意味し、判例の判断もやむを得ないと考えられます。また、判決も、協力扶助義務から直ちに監督義務者性を認めるのではなく、本件の具体的状況を踏まえて、監督義務者該当性を認めるという限定的な認定を行いました。

判例は、男性の長男について、直系血族間の扶養義務(民法877条1項)を指摘しつつも、扶養義務は協力扶助義務ほど強い義務ではないこと、同居していなかったこと、男性の妻の監督が行われていたことから、監督義務者該当性を否定しました。

大きな要素を指摘すれば、同居の妻と別居の長男の比較とも言えますが、仮に男性が一人暮らしであった場合は、具体的状況に左右されますが、別居の長男に監督義務者該当性が認められることも考えられるでしょう。

どこまで行えば監督義務を果たしたと言えるのでしょうか?

監督義務者であるとして、どのような監督まで行えば良いのかも大きな問題です。本件でも、この部分は、「いったいどこまでやれば、十分な監督と言えるのか」という疑問を生じさせました。

本件で、男性の妻は、男性が福祉施設に行く以外はほとんどを現実に見守れる状態を維持するという、相当に充実した介護をしていました。ただし、男性は、男性の妻に無断で徘徊することがあったようです。

男性の妻の状況も考慮すれば、相当の監督をしているとも思えるのですが、判決は、出入り口に設置されていたセンサーのスイッチを作動させていなかったことから、男性の妻の監督に不十分なところがあったと認定しました。

このセンサーは、どうやら以前から事務所来客用に設置されていたものであって、男性の監督のために敢えて設置したものではないようですが、このセンサーを作動させる義務まで認めて良いのか疑問があります。

本件を離れてしまいますが、もしこのようなセンサーがなければ、監督のためにセンサーを設置するなどして出入りを全て把握する義務や、外出するときは例外なく常に同行しなければならない義務を観念できるのか、無断外出をさせてしまった場合にどのように対処すれば良いのかという疑問も生じます。

判決は結果的に不可能を強いているのではないか、という印象を払拭できません。

なお、このように、本件は男性の妻に監督義務者該当性を認め、監督義務違反を認めたことは、男性の妻への負担が大きいと考えますが、判決は、損害賠償責任の金額について、公平の見地から、男性の遺産額に触れ、男性の妻の監督を肯定的に評価しつつ、JRの損害の5割に止めました。

取材協力弁護士  荻原邦夫 事務所HP
第一東京弁護士会所属。東京都中央区日本橋にあるヴィクトワール法律事務所。主に刑事事件での実績多数。また民事を含め、刑事事件になるかもしれないといったお悩みの案件にも対応。相談者に落ち着いていただき、理解していただけるよう対応することを心がけています。