HOME > 法律コラム > 利用者の約半数が早いと回答し、費用も満足という「労働審判」はブラック企業からの駆け込み寺か?!
近年「ブラック企業」にまつわる労働訴訟は後を絶ちません。
これに対して政府も傍観しているわけではなく、厚生労働省による取り締まり強化や昨年成立した「過労死防止基本法」の運用によって対策をしています。しかしそれでも労働訴訟は増加しています。
今年3月にも最高裁の大法廷にて過労死訴訟に関する判決が下されます。労働訴訟といっても過労死だけでなく、身近なところにはサービス残業や給与未払いに関する訴訟も存在しています。
そこで今回は、労働訴訟が減らない原因ともっと実行的な手段について、労働問題に強い向原栄大朗弁護士に話を聞いてみました。
まずは訴訟の減らない原因について、ニュースでは「労働基準監督署(労基署)」がこの訴訟についてイニシアチブをとっているように伝えされますが、現状この期間が機能していないということなのでしょうか。
『労基署の役割は企業に労働関係法令を遵守させるための「警察」としての立場にあります。したがって、賃金や残業代の未払は、刑事罰の対象となる犯罪行為ですから、労基署は、労働者からの被害申告があれば「警察」として当該企業に臨検等を行い、その内容次第によっては当該企業に是正勧告を行います。ところが、この是正勧告とは、強制力のない行政指導でしかなく、これにより自動的に労働者が賃金・残業代を支払ってもらえるという筋合いのものではありません。したがって、企業が是正勧告を受け、労働者に対し賃金・残業代を任意に支払ってくれればそれに越したことはありませんが、任意に支払わないこともありえます』(向原栄大朗弁護士)
つまり、労基署が正しく機能して是正勧告を出したとしても、企業によっては「任意に従う」という抜け道が残されているために問題となっている現状が放置され、労働者側も奥の手である訴訟に乗り出さざるを得ないわけですね。
しかし、生活費がかかっている給与が支払われない現状は看過できないものであり、解決に長い時間を要する労働訴訟を選ぶリスクまで負うことは困難です。そこで、労基署に駆け込むよりももっと直接的に結果を得られる手段はないのでしょうか。
『「労働審判」という制度が用意されています。これは労働契約の存否や賃金・残業代に関する紛争といった個別的な労働関係事件について、迅速な手続(3回以内の期日で審理。労働審判法14条2項)で審理し、話し合いによる解決を試みつつも、もし話し合いがつかない場合には、その話し合いの内容を踏まえて審判をするという制度です。労働審判を担当するのは、通常の裁判官(労働審判官)1名と、労働問題について専門的な知識・経験を有する専門家2名(労働審判員)で構成される労働審判委員会です。話し合いを前提にすること、及び、労働関係の知識・経験をもつ労働審判員が手続に関与することから、事案の実態が把握しやすくなりますし、また、当事者の細かな話が丹念に聞かれる傾向にあるので、解決案の納得性が増すなどの特色をもっています。』(向原栄大朗弁護士)
実際に労働審判利用者の満足度に関するアンケート調査が東京大学社会科学研究所によってまとめられています。調査結果からは統計的にも、通常の訴訟より労働審判のほうが満足度が高いことがうかがえます。今後増加する個別的な労働問題に対処する際に、労働審判が利用される件数は一層増えると見込まれます。