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全ての癌患者の情報が同意なしに登録義務化される「全国がん登録」。個人情報は大丈夫?

癌は国民の二人に一人がかかり、三人に一人は亡くなるといわれる病気です。それほど身近かつ重い病気でありながらも、その治療のための情報の整備や共有が、他の先進国と比べて遅れていると言われていました。

そういった背景を元に、日本医学会とそれに関連する学会が、2012年3月に「がん登録の法制化に係る要望書」を提出。その後、厚生労働省が2013年5月に「がん登録等の推進に関する法律案骨子案」を作成。そこから度重なる議論を経て、2013年12月に「がん登録法案」が成立し、来年の1月から施工されることになりました。

これによって癌と診断された全ての人のデータが、国によって管理されることになります。しかし心配なのは個人情報の管理でしょう。今回は全国がん登録についての概要や、個人情報について木川雅博弁護士に話を聞いてみました。

以前からあったがん登録。しかし制度自体は上手くいっていなかった。

まずは全国がん登録とはどんな制度なのか教えてください。

『全国がん登録は、今まで都道府県単位で行っていた地域がん登録に代わり、日本でがんと診断された人のデータを国がまとめて集計・分析・管理する制度で、2016年1月からスタートします』(木川雅博弁護士)

なるほど。がん登録自体は以前から都道府県単位で行っていたのですね。しかしそれを全国で行うことになった背景や必要性は何でしょうか。

『地域がん登録の場合、居住地域以外でがん診断・治療を受けた人やがんにかかってから他県に移動した人などのデータが重複してしまい、正しい情報が把握できないことがありました。また、がん登録等の推進に関する法律が制定される前は、すべての医療機関が地域がん登録に協力していたわけではないので、すべてのがん患者のデータを収集することもできていませんでした』(木川雅博弁護士)

そもそも全ての医療機関ががん登録に協力していたわけではないとなると、情報の蓄積は期待されませんね。また各自治体との連携に難しさがあり、情報の管理が正しく行われていなかったと木川雅博弁護士は言います。

『そこで、全国がん登録を行うことによって、国民のがんの罹患数、がんの進行度、生存率を正確に把握して、地域に合った医療計画を立てたり、地域でがん検診が効果的に実施されているかを検証したり、医師と患者が治療方針を決定するために生かしたりすることができると説明されています』(木川雅博弁護士)

個人を特定できる情報と診療情報は紐付けられない!

次にがん登録の手続きがどのように行われるか教えてください。

『全国がん登録制度では、すべての医療機関はがんと診断された患者のデータを都道府県知事に届け出ることを義務付けられています。がん患者の情報は、がんと診断された時点で自動的に医療機関と都道府県を通じて、国立がん研究センター内にある全国がん登録データベースに登録されます』(木川雅博弁護士)

それはつまり患者の同意を取らずに登録ということでしょうか。

『「同意なしで自動的に登録されてしまうの?」と思うかもしれませんが、がん登録等の推進に関する法律上、患者本人の同意は不要とされていますし、患者情報は医療のためとくに必要とされるので個人情報保護法上も適法となります』(木川雅博弁護士)

個人情報保護法も適法されるとはいえ、がん登録の法律上、患者本人の同意が不要とされているのは少し不安な気がします。

『全国がん登録データベースに登録された後に登録されたデータを用いるときは個人情報が特定された形で公表されないようにするため、住所・氏名・生年月日等と診療記録が紐づけられないようにするという形でがん患者の情報は守られます』(木川雅博弁護士)

診療記録と個人を特定できる情報が切り離された形で管理を行うとのことで、この木川雅博弁護士の発言に安心した方も多いのではないでしょうか。

全国がん登録の理念には「がん医療の質の向上等、患者等のがん・がん医療の理解の増進に資するよう情報を活用 」と書かれています。これによって、がんに対する治療法の進歩やがんそのものに対する理解が進むことを願ってやみません。

取材協力弁護士  木川雅博 事務所HP
東京弁護士会所属。星野法律事務所所属。平成23年に早稲田大学大学院法務研究科を修了した後、通信会社の法務・安全衛生部門に勤務。その後司法修習を経て、現事務所に入所。弁護士会では不動産法部や家族法部、相続遺言部などの会員として活発に活動。一般民事から企業法務、刑事事件など幅広く対応可能。弁護士を「身近な存在」として認識してもらえるように、日常生活における法律問題のコラムを多数執筆中。

ライター 井上