HOME > 法律コラム > 「売上あげられないなら人件費抑えるしかないだろ!」勝手に残業時間を削る上司をもし労基にチクったら?
「君はまだまだ新米だ。スピードも遅く、成果も期待できない。だから、他の人たちが問題なくこなす仕事も、君に任せると必要以上に時間が掛かる。そうなると売上は上がらないのに、人件費だけ無駄に上がる。会社からも人件費も抑えるように言われているわけで、君もその点については理解してくれるだろう。一人前になるまでは残業時間を削らしてもらうよ」
素晴らしい成果を上げて、強烈なリーダーシップを発揮する上司。そんな上司は、他の社員からはむしろ肯定されており、だからこそ誰もそれについて意見を言えません。もっともらしい事を言って、相手を納得させたとしても、完全に労働基準法違反です。
もしもこの上司や会社を労働基準監督署に報告したらどうなるのでしょうか。この問題について鈴木翔太弁護士に聞いてみました。
まずは使用者と従業員の関係において、使用者である会社及び上司にはどんな義務があるのでしょうか。
『2001年、厚生労働省により「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」が定められました。また、労働基準法は、労働時間を規制し、時間外・休日労働や深夜労働について割増賃金の支払を義務付けています』(鈴木翔太弁護士)
『つまり、会社は、従業員の労働時間を把握し、適正管理する義務を負っているのです』(鈴木翔太弁護士)
ということは本人が納得していようがいまいが、人件費を削減するために、残業時間を勝手に削減するのは違法ということですね。具体的にはどんな罪になるのでしょうか。
『労働時間を改ざんし賃金を支払わないことは、労働基準法により罰金刑が定められています(労働基準法120条1号、同法24条1項)』(鈴木翔太弁護士)
労働基準監督署の調査には「定期調査」と「申告調査」の2種類があります。定期調査は文字通り、適正に事業運営が行われているかをチェックする目的です。申告調査は、社員が会社の違法行為を報告したことによって行われる調査です。上述したケースで、例えば社員が会社の違法行為を労基に報告し、それに伴い申告調査が行われ、その調査に対して虚偽・改ざんの報告をするとどうなるのでしょうか。
『労働基準監督署の調査に際して改ざんした労働時間を申告した場合、労働基準法により、改ざんした当事者および会社に対しても罰金刑が課せられています(同法120条5号、同法104条の2)』(鈴木翔太弁護士)
『労働時間改ざんは重大な違反行為なのです』(鈴木翔太弁護士)
労働基準監督署は企業に法令を遵守させる「警察」としての役割を担っています。そして労働基準法に違反した場合、「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰の対象にもなり得るため、間違いなく効果は期待できるはずです。もしも今勤めている会社で違反が行われている場合は、まずは労働基準監督署に相談してみてはどうでしょうか。