HOME > 法律コラム > 広く認められた節税「借金して賃貸マンション購入」が、なぜか吉本興業創業者一族がやったらアウトだった件
報道によると、吉本興業の創業者一族が、3億1000万円の相続財産の申告漏れを指摘されたということです。
これだけ見ると、悪質な課税逃れという印象を持ちますが、その背景には国税がめったに使わない強権を発動したことがあることも忘れてはいけません。
報道を見ると、国税が問題にしたのは、下記の取引についてです。
(1)被相続人が亡くなる直前、創業者一族が経営する同族会社から借金をして、賃貸マンションを購入した
(2)建物は相続税の計算上、購入金額よりも相当低くなり、かつ賃貸すると30%の軽減を受けることができる
(3)反面、同族会社からの借金は、額面額で控除ができるため、②との差額分相続財産を圧縮することが可能になる
(4)被相続人の死亡後、被相続人が借金して買った賃貸マンションを同族会社が買い戻した
病状が悪化した死亡の直前にマンションを買う、といったことは一般的には考え難いところ、この取引は相続財産を圧縮することによる相続税の節税という目的が強いと考えられます。この点、国税も問題にしているようですが、押さえていただきたいのは、不自然さは残るものの、借金して賃貸マンションを買うことは相続税の世界ではよく見られる節税、ということです。
つまり、本件については他では認められるような節税を国税から否認されたわけで、このように税法の世界では原則として問題がない取引について、それが税負担を免れるために行った不自然なものであれば、否認できるという仕組みがあります。それが、行為計算否認規定という規定であり、本件もその規定に基づいて否認がなされています。
行為計算否認は、国税の内部において「伝家の宝刀」と言われています。これに基づいて否認する、ということは、他では一般的に認められる節税を、取引の不自然さというよく分からない事実関係を基礎として否認することになりますので、非常に強行的な処分です。
このため、使うことは不可能ではないけれど、きわめて慎重に使うべきとされており、このため「伝家の宝刀」などと言われるのです。
近年、伝家の宝刀を抜いて納税者に天誅を加える課税処分が増えているように思われます。原因はいろいろありますが、最も大きな理由は、税務調査の実行部隊が法律の適用を審査する審理部門よりも大きな力を持っていることです。
実行部隊はたくさん税金を取りたいところ、強行的な処分もやむなしと考えることが多いです。これをブロックするために審理部門があるわけですが、近年はブロックする側よりも実行部隊の方がより大きな力を持っている、と言われています。
ブロックがうまく働かないとなると、今後も強行的な処分は増える可能性が大きく、結果として税務調査から身を守るためには、相応の覚悟をもってあたる必要があるのです。