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「人間の染色体は46本である」と記載されている教科書。これって差別を助長する人権侵害?!

高校の生物の教科書の中に「人間の染色体数は46本である」と記載しているものがあります。

確かに、現代の生物学を前提とすると、一般的にはそのように言えるようですが、一方で、例えば、ダウン症は、21番目の染色体が3本組になっている疾患であり、染色体数は47本ということになります。

ダウン症以外にも23番目の性染色体がXXYやXYYなど3本組になっている先天性疾患があります。

また、上記のような教科書の記載を見て、ネット上に「ダウン症は人間じゃないんじゃね」などと心無い書き込みがあったことも確認されています。

このように疾患や記載によって差別が生じうることに配慮されずに作成された教科書、あるいは実際に疾患を持っている人に対する差別的発言は法的に問題にならないのか、寺林智栄弁護士に聞いてみました。

『人間の染色体数が46と限定して教育することは人権侵害にはあたりませんか?』

現代の生物学の立場では、「通常の人間の染色体は46本」というのが通説になっているのだとしたら、このように生物の教科書に記載すること自体は、ダウン症やその他の染色体の疾患を有する人の権利を侵害しているとはいえないでしょう。

教科書とは、国の基準に従って、その学年において求められる教育レベルの知識や理論等を記載するものです。冒頭の記載は、その観点からなされた記載であり、さらに「染色体が46本ではなければ人間ではない」などと殊更に記載されているわけでもありません。

このような記載をもって、教科書会社や国に対して責任を問うことはできないといえます。

『教科書の中には「DNA複製は完全に正確に行われなければならない」や、ネット上には「染色体が46でないということは人間じゃない?」などありますが、これは国の責任と言えますか?』

この発言については、ダウン症の方に対する差別発言であり、その名誉感情を著しく傷つける可能性があるといえるでしょう。

具体的な発言の内容をすべて確認していないので、あくまで可能性でしかありませんが、発言者が特定できれば、その発言者に対してダウン症の方が慰謝料等を請求できるともいえます。

ただ、このような発言があったからといって、それだけで、教科書会社や教科書を採用している学校、国、自治体などに対して責任追及することは困難でしょう。

先天性の疾患や障がいを国民に理解させるための国の施策はまだまだ十分なものではありません。法的な責任にはなりにくいとしても、心ない発言や対応で、障がいのある人たちやその家族が苦しむことが少しでも減らせるよう、教科書の記載や現場の教師の教え方に一定の配慮がなされることが、必要ではないでしょうか。

取材協力弁護士  寺林智栄 ともえ法律事務所 事務所Facebook Blog
東京弁護士会所属。様々な会務活動をこなしながら刑事事件や離婚問題、労働問題、借金問題、詐欺、不当請求などに取り組んでいます。一人でも多くの方々の悩みの解決のために邁進中。

ライター 長澤正嘉

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